社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「なんで……、颯真さんは怪我した美春じゃなくて、私のそばにいるの?」

「あぁ!! そんなの決まっているだろ! 穂花が大切だからだよ」

 美春より、私が大切。その言葉が心を震わせ、止まっていたはずの涙が一粒こぼれ落ちる。

「なんで……、どうして……、だって美春は、ずっと颯真さんが追いつづけた人なんでしょ」

「確かに、一般的なファンならば、ずっと追いつづけた人が目の前に現れれば、浮かれもするだろう。でもね、美春さんとプライベートで会っていたのは、彼女が『花音』なのか確信を得るため。だけど、もうそんなのどうでもいいんだ。俺の心にいる『花音』に美春さんは絶対に勝てないとわかったから」

「それは、美春が『花音』ではなかったということ?」

「美春さんが『花音』かどうかはわからない。でもね、そんなこと、もうどうでもいいんだ。美春さんが『花音』だろうと、なかろうと関係ない。それよりも大切な人を見つけてしまったからね」

「えっ……」

 颯真さんの言葉に、運転席に座る彼を振り返ると真剣な眼差しに晒され、鼓動が跳ねる。彼の言葉の続きを期待している自分がいる。

――大切な人……

 その人は、誰?

「穂花……、君を見ているとたまらないんだ。危なっかしくて、目が離せなくなる。君の心を蝕むすべてのものから守り、囲ってしまいたくなる。でも、それは俺のエゴであって、何の解決にもならない。だから、見守るって決めたのに、すぐ手を差し伸べたくなってしまう。ダメだな、俺……」

 そう言って項垂れている颯真さんを見つめ、胸が切なく痛む。

 彼は美春でもなく、『鏡レンナ』でもなく、『花音』でもなく、私自身のことを大切だと言ってくれているのだ。その事実が、どれほどの喜びを私に与えたなんて、彼は気づきもしないのだろう。

「――本当、かっこ悪いわぁ」

「……颯真さん、あの――」

 心の中で膨らみ続ける想いを伝えたくて言いかけた言葉は、彼の口から出た予想外の言葉に遮られてしまった。

「ちょっと、付き合ってくれる。どうしても穂花を連れて行きたい場所があるんだ」

「連れて行きたい場所?」

「あぁ、俺の原点」

 そう言ったきり何も言わなくなった颯真さんは車のエンジンをかける。流れていく夜景はドキドキと高鳴り出した鼓動を落ち着かせてはくれなかった。
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