社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「でも……、颯真さんは、今でも一色コーポレーションの社長として、広告塔の役割を果たしていますよね。なぜ逃げずに今も、広告塔としての立場を貫いているの?」
「そうだね……、自分の中にある劣等感を認め、客観的に自分の立場を見れるようになったのが大きいかもしれないね。発想の転換って言うのかな、完璧な兄にも欠点があると気づいたのが大きいかもしれない。自分には兄より優る能力があるってね」
それが社交性だったということなのだろうか。
「それに自分の立場を受け入れた事で出来た人間関係もあった。今じゃ、一色グループの広告塔としてじゃなくて、一色颯真個人と仕事をしたいと言ってくれる顧客も増えている」
そう言って本社ビルを見上げた颯真さんの顔は、清々しいほどに輝いて見える。
「あの時、花音の配信を聴いていなければ、今でも腐っていたと思うよ。彼女の言葉があったから一歩を踏み出せた。だからこそ、穂花を見ているともどかしい気持ちにさせられる。それは君と過去の俺が似ているからなんだろうね。生きたいように生きられないって意味で――」
こちらを見つめる颯真さんの真剣な瞳とぶつかり、心が揺れる。
彼は気づいている。私の置かれた状況に。
「颯真さん、一つ聞いてもいいですか?」
「あぁ、なんだい?」
「颯真さんは結局、一色グループの広告塔としての立場を受け入れる選択をした。逃げようと思わなかったのですか?」
「逃げ出す? そんなの何回も思ったよ。一色グループとの関係も切って、独り立ちしようと思った。でもね、それって逃げているだけだって気づいたんだ。まぁ、理不尽な状況に追い込んだ奴らを見返してやろうって思いもあったけどね」
「強いですね。颯真さんは強い……」
「そうかな? 穂花も強いと思うけどな」
「いいえ、強くなんてないです。今の状況を受け入れる度量もなければ、抜け出すだけの勇気もない。一歩を踏み出そうと決意しても、イレギュラーが起きれば尻込みしてしまう。もう……、自分でもどうしていいかわからない」
両手で顔を覆いうつむけば、止まったはずの涙があふれて流れ出す。
……颯真さんのように、強くなんてなれないよ。
「美春の影としての人生が私にはお似合いなのかな……」
つぶやいた言葉は、ぎゅっと抱きしめられた彼の腕の中へと消え、彼の温もりに包まれて、流れ出した涙は止まることなく頬を伝い落ちていく。
「穂花……、君が望むなら、どんな手を使ってでも今の状況を変えてあげる。それだけの力を俺は持っている。君が望めば何だって俺はする……」
震える声で紡がれた颯真さんの言葉が心を震わす。
きっと彼が手を回せば、美春の影としての立場は簡単に終わりを告げる。
一色グループのプロモーション活動を一手に引き受けている会社の社長なのだ。彼が叔父の芸能事務所に圧力をかければ、彼の希望は簡単に通るだろう。
彼の言葉に頷くだけで美春から解放される。
自由な人生を手に入れることが出来る。
ただ、頷くだけ……、でもダメね……
彼を見つめ、泣き笑いのような笑顔を見せる。
これが、今できる私のせいいっぱい。
「そうだね……、自分の中にある劣等感を認め、客観的に自分の立場を見れるようになったのが大きいかもしれないね。発想の転換って言うのかな、完璧な兄にも欠点があると気づいたのが大きいかもしれない。自分には兄より優る能力があるってね」
それが社交性だったということなのだろうか。
「それに自分の立場を受け入れた事で出来た人間関係もあった。今じゃ、一色グループの広告塔としてじゃなくて、一色颯真個人と仕事をしたいと言ってくれる顧客も増えている」
そう言って本社ビルを見上げた颯真さんの顔は、清々しいほどに輝いて見える。
「あの時、花音の配信を聴いていなければ、今でも腐っていたと思うよ。彼女の言葉があったから一歩を踏み出せた。だからこそ、穂花を見ているともどかしい気持ちにさせられる。それは君と過去の俺が似ているからなんだろうね。生きたいように生きられないって意味で――」
こちらを見つめる颯真さんの真剣な瞳とぶつかり、心が揺れる。
彼は気づいている。私の置かれた状況に。
「颯真さん、一つ聞いてもいいですか?」
「あぁ、なんだい?」
「颯真さんは結局、一色グループの広告塔としての立場を受け入れる選択をした。逃げようと思わなかったのですか?」
「逃げ出す? そんなの何回も思ったよ。一色グループとの関係も切って、独り立ちしようと思った。でもね、それって逃げているだけだって気づいたんだ。まぁ、理不尽な状況に追い込んだ奴らを見返してやろうって思いもあったけどね」
「強いですね。颯真さんは強い……」
「そうかな? 穂花も強いと思うけどな」
「いいえ、強くなんてないです。今の状況を受け入れる度量もなければ、抜け出すだけの勇気もない。一歩を踏み出そうと決意しても、イレギュラーが起きれば尻込みしてしまう。もう……、自分でもどうしていいかわからない」
両手で顔を覆いうつむけば、止まったはずの涙があふれて流れ出す。
……颯真さんのように、強くなんてなれないよ。
「美春の影としての人生が私にはお似合いなのかな……」
つぶやいた言葉は、ぎゅっと抱きしめられた彼の腕の中へと消え、彼の温もりに包まれて、流れ出した涙は止まることなく頬を伝い落ちていく。
「穂花……、君が望むなら、どんな手を使ってでも今の状況を変えてあげる。それだけの力を俺は持っている。君が望めば何だって俺はする……」
震える声で紡がれた颯真さんの言葉が心を震わす。
きっと彼が手を回せば、美春の影としての立場は簡単に終わりを告げる。
一色グループのプロモーション活動を一手に引き受けている会社の社長なのだ。彼が叔父の芸能事務所に圧力をかければ、彼の希望は簡単に通るだろう。
彼の言葉に頷くだけで美春から解放される。
自由な人生を手に入れることが出来る。
ただ、頷くだけ……、でもダメね……
彼を見つめ、泣き笑いのような笑顔を見せる。
これが、今できる私のせいいっぱい。