日ノ本時代男子

昭和くん

「あけおめー!このメンバー揃うのも久しぶりだねー!」

「無事に冬期講習から生きて帰ってきた、褒めろ」

「未来の工場長だぞー、やっと滋賀の地に戻って来れた」

「うわぁぁ、お前らぁぁ!」

「お前らなぁ……初詣くらいは静かにしてくれ」

​私も一緒に行くー!と駄々(だだ)をこねて離れなかった令和ちゃんを大正くんに任せて、私はいつもの仲良しグループで初詣にやってきた。

久々に見るみんなの顔は、冬休み前と何ひとつ変わっていなくて、なんだか無性に安心する。

賽銭箱の前で手を合わせ、それぞれ願い事を唱えた。

「来年も一緒に来れますように!」

「来年は高校だよなー」

「いつからの伝統だ、これ?」

「そういや小学校に入る前からだよなー!え、凄くね?」

「今年こそバカ四天王がまともになりますように」

​無事にお参りを済ませ、境内のはずれにあるベンチへ移動した。

紙コップに入った甘酒を両手で包み込みながら、特に目的もなくダラダラと喋り込む。

「にしても寒くね?」

蒼真が真っ赤になった手をすり合わせながら、大きく白い息を吐き出した。

「今年はいつもより冷えるなー……さぶっ」

「朱里、カイロ何個使ってるの?」

「五個」

私達の誰よりも防寒対策がバッチリなはずの朱里が、ガタガタと小刻みに震えている。そういえば、極度の冷え性だったっけ。

そんな他愛のないやり取りをしていると、ふと空を見上げていた委員長が呟いた。

「……雪、強くなってないか?」

「あー……本当」

さっきまでは珍しく『降ってるな〜』程度だったのに、今や視界を白く染めるほどに勢いが激しくなっている。

「やべ、早く帰らないと霜焼けなるぞ」

「帰ろ帰ろ」

「家帰ってこたつでぬくぬくしたい」

「はは、俺も……」

吹雪になる前にと、私達は急いで解散することにした。

めいめいに手を振り、それぞれの帰路につく。

私も悠久邸に向かって足早に歩いていると、散歩途中の昭和くんとバッタリ遭遇する。

「御寮人、ちと話してぇことがあるんだ。少し散歩に付き合ってくれねぇか?」

​その声は、いつもみんなと話している時よりも少し低く、どこか落ち着いた響きを含んでいた。

「大した話じゃねぇが、みんながいる前だと話しにくくてな」

昭和くんは決まり悪そうに、少し恥ずかしそうに頭を搔いた。

​彼に連れられて辿り着いたのは――昭和最後の年の東京だった。

「どこに行くの?」

「御寮人は、高杉晋作(しんさく)っていう幕末の武士を知ってるか?」

「えーっと、確か長州藩の人だよね?奇兵隊を作った……」

「そうでぇ、よく知ってるな」

昭和くんは寒そうに外套(がいとう)の袖に手を入れ、私の歩幅を気遣いながら、ゆっくりとした足取りで進んでいく。

遠くに見える街灯の列が、冷たい夜気の中で一本の淡い光の線みたいに続いていた。

やがて、道がゆるやかに上り始める。

「坂?」

「ああ、もう着くな。……その高杉晋作が、戦って死んだ仲間を祀るために『招魂社(しょうこんしゃ)』を建てようって言い出した場所が、ここだ。吉田松陰や高杉晋作、坂本龍馬もここに祀られてんだよ」

ゆっくり歩きながら向かったのは、テレビのニュースなどで見たことがある靖国(やすくに)神社だった。

昭和くんは帽子を脱ぎ、鳥居をくぐる。

​拝殿の前に立つとパンパンと柏手(かしわで)を打ち、深く一礼した。そして、ゆっくりと手を合わせる。

その横顔にある、いつになく真剣な、どこか遠くを見つめるような瞳。

私は圧倒されながらも、その姿を真似て手を合わせた。

―――​長い、長い沈黙。

何を祈っているのか、聞いてはいけない気がした。

参拝を終えて、少し離れた場所まで歩く。

昭和くんは並木の下で立ち止まり、振り返って私を見た。

「あそこには、戊辰(ぼしん)戦争から第二次世界大戦まで、国のために命張った国民達が眠ってんだ。今日は新年の挨拶に来たんでぇ」

そう言った昭和くんは、少し悲しそうな表情をしている。

「……この先に平和があるのか、長ぇ戦いがあるのか俺には分かんねぇ。もしかしたら、何千何万の国民が御寮人の為に命を捧げることがあるかもしれねぇ」

それは。

私が何か言うより先に、昭和くんが口を開いた。

「だからよ、その何千何万の命に値(あたい)する存在になれ。……どうか、御寮人(令和)の代が千に千代に続きますように」

その言葉は、祈りというより何かを託す声で。

「……新年早々、重たいこと言って悪ぃな」

そう言ってから、昭和くんは少し困ったように笑った。

「帰るか」

「……うん」
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