日ノ本元号男子

大正くん

1923年(大正12年)
視界を埋め尽くすのは、全壊した家屋から吹き出す猛烈な紅蓮の炎と、天を覆い尽くす不気味な黒煙だった。
その地獄絵図の中心で、巨大な炎の塊と化した厄災の獣が咆哮をあげる。
大きな炎の塊みたいな獣を何とか(しず)めようと狩衣姿の陰陽師達が必死に食い止めてくれているが、厄災には効き目がない。
「下がって!あとは俺が引き受ける!」
すっと(さや)から抜き放った刀を、容赦なく熱風を吹き付けてくる厄災へと向ける。だが、刀を握るその手は、恐怖で微かに震えていた。
(俺にできるのかな……)
​まだ12歳という子供の身。しかし、その元号の化身である自分自身でなければ、この厄災を討ち滅ぼすことはできない。ここで本災(ほんさい)を倒しきれなければ、火災はさらに広がり、日ノ本の国民や人家の被害は計り知れないものになるだろう。
「みんなが繋いでくれた日ノ本の時代を、俺の代で終わらせる訳にはいかない!」

「―――こんな話で良かった?」
​木の温もりが残るカウンターチェアに座り、お汁粉の器を片手に持った大正が、対面に座る令和に向けてひょいと首を傾げた。
そのあどけない表情からは、先ほど語られた壮絶な過去は想像もつかない。
「凄いね……大正くんって」
「鎮圧はできたけど……その後の後処理が大変だったんだよね〜。壊れたインフラ整備とか」
大正の顔がみるみる青ざめ、視線がどこか遠いところへ向かう。当時の凄惨な激務を思い出して、文字通り魂が抜けかけているようだ。
「うわー、大変そう」
​令和は思わず口元に手を当て、引き気味になりながらも、目の前の大正へ密かに深い尊敬の念を抱いた。
大正12年。つまり、大正がわずか十二歳の時に、彼は国を揺るがす厄災をその身一つで鎮圧したのだ。今の自分にそれほどの覚悟があるだろうか、と令和は自問する。
「でも、大人の令和っちも似たようなもんでしょ?」
「うーん……そうだけど」
令和の手は微かに震えている。
「一番怖いのは、一時とはいえ持ち場から離れてる状態なんだよね。自分の一つの判断で大勢の人を傷付けてしまうかもしれないって考えたら……怖くて」
令和の告白を受け、大正はからからと笑うのをやめ、少しだけ真剣な目をした。
「……そっか」
​大正は最後のお餅を口に放り込み、残ったお汁粉を綺麗に飲み干す。そして、器をパチンと置くと、いつもの調子を取り戻して椅子から飛び降りた。
「話も終わったから俺はもう行くけど―――グッドラック!」
大正は振り返り、ビシッと親指を立てて完璧なドヤ顔を決めてみせる。
「大正くんって無駄に発音が良いね」
「ひと言余計だよ〜」
令和は大正と別れると、明治にお礼を言って未来に帰っていった。
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