【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
第7話:娘の秘められた才能
裏庭の一角にある、赤茶色のレンガブロックで囲まれた花壇。
本来であれば初夏の花で埋め尽くされ、目にも鮮やかな景色が広がるべきそこには、青々とした草がこんもりと生えていた。
(なんだ、これは……?)
確かセレスティアは『おはなをそだてて、かだんをつくりたいの!』と言っていたはずだ。
しかし、アルフレッドの目の前にあるのは草ばかり。ところどころ白や薄桃色の小花が咲いているものの、どう見てもこれは花壇ではなく薬草畑である。
「ここがセレスティア様の花壇でございます。こちらはオレガノ、あちらはグランフェリシア原産のスイート・タイムで、そちらはカモミールですな」
案内役のモーリスが丁寧に解説してくれるが、驚きのあまりアルフレッドの頭にはいまいち情報が入ってこない。
とりあえず、観賞用の花ではないことは分かった。
「薬草園でも作るつもりなのか……うちの娘は」
「ほっほっほ。わしもてっきり綺麗な花を植えるものかと思っていたのですがね。お嬢様が、どうせ育てるなら美味しくて健康によいものがいい、とおっしゃいましてのぉ。結果、このような食用草ばかりに」
花壇の草花にまで食べられることを条件とするあたり、食に対するセレスティアの飽くなき探究心と執着心が窺える。
「花より団子……いや、花よりハーブか。セレスティアらしいな」
「花よりダン……? なんですかな、それは?」
「見栄えより実利を重視することを、東方の異国では『花より団子』、あるいは『色気より食い気』などと表現するらしい」
「ほっほっほ、それはお嬢様にぴったりの言葉ですなぁ。おっ、噂をすれば」
モーリスの視線をたどれば、庭の一角にしゃがみ込み、土いじりをするセレスティアの姿があった。
袖をまくった白シャツに茶色い脚衣、目深にかぶった麦わら帽子。
農作業用の手袋をはめた手で雑草や花殻を拾い、時折首から下げた布で額の汗を拭う仕草はやけに様になっている。
「随分と手慣れているな」
「そうなのですよ。物覚えもよく作業もとてもお上手で、わしも毎回驚かされるばかりです。初心者、しかも三歳でこれほどできるとは。いやはや、セレスティア様は末恐ろしい才能の持ち主ですぞ」
果たして薬草栽培の才能は、令嬢として活かせるのだろうか。
(……いや。どう考えても、要らないだろう)
貴族にとって庭は愛でるものであって、触れるものではない。
もし先代公爵の父が生きていたら、「リシャール家の令嬢が庭師や農民の真似事をするなどけしからん!」と怒り狂うだろう。
そして「即刻辞めさせろ」と言うに違いない。
まぶたを閉じれば、怒鳴り散らす父と顔を歪める母の姿が容易に想像できた。
(貴方たちの教えは、俺の代で断ち切らせてもらいます)
みずからが抑圧された子供時代を送ったからこそ、アルフレッドは娘に思う存分、本人がしたいことに挑戦させてやりたい。
たとえそれが令嬢として普通ではない、常識外れの趣味だったとしても。
我が子の翼を折るような親にだけは、なりたくないのだ。