【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
第8話:真夜中の訪問者
アルフレッドが書斎で各所の報告書に目を通していると、ノックの後にジェラールの声が聞こえてくる。
「旦那様、夜分遅くに申し訳ございません。研究支部からガスパール様がお見えに……おっ、お待ちください!」
部屋の外がにわかに騒がしくなったかと思えば、次の瞬間、扉がバンッと開け放たれた。
現れたのは、しわだらけの白衣を着込み、伸ばし放題の赤茶の髪を後ろで無造作に束ねた猫背の男。
死骸虫研究のため、リシャール領都に臨時で設けた研究支部の若き所長──グレゴリウス・ガスパールが、丸眼鏡をキランと光らせて猛然と詰め寄ってくる。
「聞いてください、リシャール公爵閣下! ついに、ついに……! 死骸虫に有効な薬草が見つかったのです!!」
「よくやった、ガスパール。詳しく聞かせてくれ」
「はい! わたくしは常々、閣下に申し上げておりました! 霊脈の影響を受けた死骸虫に対抗するには、霊的な干渉力のある薬材が必要だと。しかし閣下からは、こうもご意見をいただいておりました。『そのようなものは一体どこにあるのか』と。ごもっともでございます! わたくしめも、何度も何度も思いました。己の仮説が間違いなのではと。このまま一生、そのようなものは見つからないのではと!」
「ガスパール。興奮する気持ちはよく分かる。だが、一度落ち着いて話を──」
「しかーし! この天才グレゴリウス・ガスパール! 手をこまねいていたのは今日まででございます! ここから一気に完成までこぎ着けてみせますぞ! なにせ気力体力・やる気、すべてにおいて漲っており、今日も朝からステーキを三枚食べましたからなッ! 『三十代後半は健康の曲がり角』などと言う輩もおりますが、わたくしはそうは思いません。今が最盛期! そしてこれからも最高を更新し続ける男、それがわたくしでございます! はーっ、ははははっ!! …………あれ? わたくしは一体、なんの話をしていたんでしたっけ?」
上機嫌な高笑いから一転。急に真顔になり、首をかしげて問いかけてくるガスパール。
相変わらず、この男の情緒はよく分からない。
アルフレッドはこめかみを押さえ、頭痛を堪えながら答えた。
「死骸虫研究の話だ。有効な薬草が見つかったそうだな?」
「あっ、そうでした、そうでした。閣下から頂戴したホシツユクサを被検体の死骸虫に試しましたところ、みるみるうちに衰弱し、そのまま息絶える個体もおりました。いやぁ、こんなにも効き目のある薬材がこの世に存在するとは驚きです。どこで見つけたんです?」
「娘の花壇だ」
「……はい?」
ガスパールがきょとんとした顔で目を瞬かせる。
思考停止とは、まさにこのこと。
だが、こうなるのも致し方ないだろう。
なにしろ研究者らが血眼になって探し求めていたものが花壇から偶然見つかったなど、にわかに信じがたい話だ。
とはいえ、事実なのだから仕方ない。