【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
「娘によると、いつの間にか花壇に生えており、水を与えたら驚くべき繁殖力で増えたそうだ」

「ほ、ほう……それはなんとも興味深い。セレスティア様にじっくり話を伺ってきてもよろしいですか?」

「いいわけないだろう、真夜中だぞ。娘はとうに寝ている。それに訊いたところで、これ以外のことは分からないと思うぞ」

「それは残念。うむ……考えられる仮説としては、やはり霊脈か……。そういえば、ここの近くの森には大きな霊脈が走っていたような……。霊的エネルギーによって薬草が突然変異した……? ありえる、ありえるな!」

 腕組みをして独り言を呟きはじめたガスパール。

 この男は放置すれば、何時間でも思考の海に沈み続ける。
 それを今までの経験上よく分かっているアルフレッドは、手を強く叩いてガスパールの意識を引き戻した。

「ガスパール! 話は終わっていないぞ。戻ってこい、ガスパール!」

「おっと、失礼いたしました」

「それで? 駆除剤は何日ほどで完成できる?」

「そうですねぇ。二ヶ月もあれば」

「三週間だ」

「えぇっ⁉」

 そんな無茶なぁ!と、ガスパールは泣きそうな顔で悲鳴を上げた。

「支部全員が徹夜しても、三週間は無理ですよ」

「ではスチュアート殿下に協力を仰ぎ、王都の研究本部に最高の設備と人員を用意する。それであれば可能か?」

「それは……やってみないと、なんとも……」

 珍しく歯切れの悪い返答だ。
 アルフレッドは薬品開発には詳しくはないが、ガスパールの様子を見る限り、たとえ材料が揃っていたとしても、それを完成品にまで高めるのは至難の(わざ)なのだろう。

 できることなら十分な時間を与えてやりたいが、この研究には国の行く末と多くの国民の命がかかっている。
 もはや悠長に構えてはいられない。

「三週間。それ以上は待てない。やり遂げてくれるな? ──〝天才〟研究者殿?」

 わざと天才を強調して煽るように言えば、ガスパールは丸眼鏡の奥の目を細め、ニヤリと笑った。

「相変わらず、人のやる気を引き出すのがうまい御方だ。いいでしょう。三週間でやってやりますよ。なんてったってわたくしは、この国一番の天才なのでね!」

 では失礼!と、白衣をひるがえし、ガスパールは書斎を出て行った。
 バタンと強めに扉が閉められる。

 室内に控え、アルフレッドとガスパールの会話を聞いていたジェラールが苦笑いを浮かべた。

「いつもながら賑やかで愉快な方ですね、ガスパール様は」

「賑やかではあるが愉快ではない。まったく、話しているだけで疲れる男だ」

「ふふっ、またそのようなことをおっしゃって。王都の研究所でくすぶっていたガスパール様を引き抜き、あのように天才と自称するまでに能力を引き出したのは、他ならぬ旦那様ではありませんか」

「……まぁ。あいつは社交性も協調性もないが、研究への熱意と根性、それに才能だけはあるからな。研究所の片隅で雑用係をさせておくには、勿体ない人材だった」

「旦那様の慧眼には感服いたします」

「褒めてもなにも出ないぞ。それより深夜にすまないが、出立の手配を頼む」

「このような夜分に王都へ向かわれるのですか?」

「ああ。ガスパールに最高の設備と人材を約束してしまった手前、破るわけにはいかないからな」

 承知いたしましたと頭を下げて、ジェラールが足早に書斎を退室する。

 手早く身支度と荷造りを終えたアルフレッドは、屋敷を出る前に娘の顔を一目見ようと、セレスティアの部屋を訪れた。

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