元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
⑪ナミ
約束の日。


湊は、目覚ましが鳴るより先に目を覚ました。枕元のスマートフォンを見る、まだ午前6時40分・・・。


「仕事じゃねぇんだぞ。」


思わず苦笑いが漏れる。今日は待ち合わせが昼前なのだから、こんな時間に起きる必要などどこにもない。もう一度眠ろうと目を閉じる・・・でも、無理だった。


(俺は遠足前の小学生か?)


5分後には諦めて起き上がり、カーテンを開ける。青空だった。


「天気、いいな。」


それだけで少しテンションが上がっている自分がいる。

 
顔を洗い、朝食を済ませ、コーヒーを淹れる。時計を見る。


「まだ7時半か・・・。」


時計が進まない、落ち着かない。部屋を見回してみる。なぜか、急に思い立って、掃除を始める、でも10分で終わる。やることがなくなった・・・。


仕方なくクローゼットを開ける。


「さて。」


取り敢えず、前の日にイメ-ジしていたの服を取り出し、鏡の前で合わせてみる。


「いや。」


首を傾げる。


「これじゃ気合い入れすぎか。」


着替える。


「う~む・・・。」


今度はラフすぎる。


「いや、これは違う。」


また着替える。

 
次は「ちょっと堅い。」


その次は「若すぎねぇか?」


決まらない。気がつけば、ベッドの上には脱いだ服が山になっていた。


「俺、何やってるんだ?」


思わず苦笑いが浮かんで来る、ライブの本番前だって、ここまで悩んだことはない。


しばらく考え込んだあと、湊は最初に手に取った服をもう一度着てみた。


鏡を見る。


「やっぱり、これか・・・?」


だとしたら、随分遠回りをしてしまった。でも、鏡に写る自分の姿を改めて見て


「これが一番、俺らしいな。」


そう独り言ちた湊は


「よし。」


と、小さく頷いた。なにが「よし」なのか、自分でもよくわからないままに。
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