こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜

21.マドレーヌ

「なんで佐久間が便乗するのよ」
 遥は会社の近くの焼き鳥屋でビール片手に枝豆を食べている佐久間に思わず突っ込んだ。

「なんだよ、俺の方が先に富樫と約束していたんだぞ」
「ごめんね、ハルカちゃん」
 富樫に今日のお礼を兼ねて夕飯を一緒にどうかと声をかけたら、佐久間と焼き鳥屋で会う約束をしていると言われ一緒に来ることにした。

「だからってなんで佐久間の分まで私が払うのよ」
「細かいことは気にすんなって」
 これから働くから前払いだと佐久間が笑う。
 遥が溜息をついていると、佐久間は遥のネイルを指差した。

「どうしたんだよ、そんな女らしい爪して」
「あ、これ? お盆休みだったし」
 もう一週間たつからけれど、まだまだ綺麗で取るのがもったいないからつけたままだったが、会社では不適切だろうか。

「取ってもらわないといけないのに、忘れてたわ」
「別にいいんじゃね?」
 会社規定に書かれていないだろと言われた遥は思わず笑ってしまった。

「ハルカの家、楽しみだな」
「古すぎて驚かないでよ」
「え、まさか床がギシギシ鳴るとか?」
「そこまでじゃないわよ」
 店オリジナルの味噌味のせせりを頬張りながら遥が不貞腐れると、佐久間もせせりを手に取りながら笑う。

「みんなクッション持ってくるって」
「待って、そんなにクッションばっかりあっても」
「ヤスさん、ひんやりマットも買ったって」
「ネコじゃないんだから」
 富樫がスマートフォンに表示したみんなのメッセージは、クッションや座布団のお披露目大会だ。

「こんなに大きいの無理だから!」
「うん、さすがにこれは無理って返信しておいたよ」
 さすがツクモに残ってくれた人たち。
 事務所が火事でなくなっても、前向きに返事をくれるみんなの気持ちが本当にありがたかった。

「富樫も佐久間も本当にありがとね」
「なんだよ、急に」
「同期でしょ」
 砂肝、ぼんじり、ねぎまを頼んで、3人で盛り上がる。
 時間はあっという間に9時になり、お開きとなった。

「また明日!」
 二人と別れてマンションへ戻ったが、隼人はいなかった。
 いつもならこの時間はいるのに、これは避けられているのだろうか。
 
「……お父さんの時計?」
 リビングのガラステーブルの上に置かれた紙袋の中には動物園のキリンの前で撮った家族写真、お気に入りの万年筆、社印、名刺ファイル、従業員たちの履歴書。

 これは全部社長室の引き出しに入っていたものだ。
 匂いは何となく焦げ臭い。

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