こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜

23.腕枕

 キッチンに人参、じゃがいも、玉ねぎ。パックに入った豚肉、市販のカレーのルーを準備した遥は、作り方がついている箱を見ながら悩んだ。
 箱に書かれた説明通りに調理すればカレーが出来上がると思ったのに。
 
 箱の説明書は『①炒める 厚手の鍋に……』と書かれている。
 野菜を切っていないのに①が炒めるなんて困るじゃないの。
 とりあえず箱に書かれた分量にするため包丁を握ったが、人参が100グラムにならず格闘していたら玄関が開く音が聞こえた。

「あ、おかえり」
「……包丁は苦手じゃなかったか?」
 そんなに呆れなくてもいいじゃない!
 カレーなんて小学生のキャンプ以来、しかも当時は混ぜる係なんだから!

 玄関からキッチンが見える場所まで歩いてきた隼人の視線が痛い。
 
「左手は猫の手で」
「猫?」
「待て、危ない。俺がやるから待ってろ」
 隼人は荷物と上着をソファーに放り投げると、シャツの袖をまくり、手を洗う。
 遥から包丁を奪うと、無残な姿になった人参を見つめた。

「……人参の皮はどうして剥いていないんだ?」
「そんな怖いことできるわけないわ」
 そこからかと隼人は慣れた手つきで人参の皮を剝く。
 遥はカレーのルーの箱を手に取り、隼人に見せた。

「この説明、酷いのよ。野菜を切っていないのに炒めるところからスタートなんだから!」
 ありえないと遥が怒ると、数秒たった後に「そうだな」と言われた。
 なによ、その微妙な間は!

 じゃがいもの皮も簡単そうに剥かれて切られていく。
 玉ねぎは目が痛くなりそうなので、遥は自主的に避難した。

「……メモを見なかったのか?」
 鍋に材料が入れられ、ジュッと音を立てて炒められていく。
 遥はポケットの中に入れていたメモをピッと取り出すと「見たわよ」と返事をした。

「記者会見、見ていないのか?」
「見たわよ」
「だったらどうして戻ってきたんだ?」
「別居禁止だもの」
 なにかおかしい? と遥が尋ねると、珍しく困惑した隼人の顔を見ることができた。

 鍋には水が入れられ、隼人は米を研ぎ始める。

「しばらく報道関係者がうろつくから、実家にいた方が」
「全員在宅勤務にしたの」
 遙の言葉に、隼人は米を研いでいた手を止め、顔を上げた。
 
「ありがとう。在宅勤務可能なパソコンの設定にしてくれたって富樫から聞いた」
「一般的な設定だ」
 隼人は再び米を研ぎ始める。

「九十九ってね、珍しいのよ。すぐ家がバレるわ」
 ここの方が安全だと思わない? と聞かれた隼人は、困った顔をしながら「なるほど」と呟いた。
 
「で、どうしてカレーなんだ?」
「もしかしたら帰って来ないかもと思って。なんとか作れそうで、数日自分が生きていけそうな食べ物がこのくらいしか思いつかなかったのよ」
 カレーすらこんなに苦戦するとは思わなかったと肩をすくめながら、遥はダイニングの椅子に腰かける。
 遥がぐつぐつし始めた鍋の方をぼんやりと眺めている間に炊飯器に米をセットし終えた隼人は、冷蔵庫からレタスやキュウリを取り出した。
 
「うちの社員が悪かった」
「悪いのはあいつらよ」
 社員全員がいい人なんて無理だと遥が答えると、隼人は「そうだな」と自嘲した。
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