婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで

22.黄色い百合とワスレナグサ

 昼過ぎ、王城の中庭にある第三温室。

 最奥のベンチで、エースはミラジェーンの話に耳を傾けていた。

 ここはエースのための個室のような場所で、庭師や侍女以外で彼が招いたのは、ミラジェーンが初めてだった。

 当のミラジェーンは俯いたまま、膝の上で手をぎゅっと握り、背を丸めて話していた。


「……というわけでして」


 ミラジェーンは一通りの説明を終えた。


 婚約者であるエリオットから、長らく冷たく辛辣な態度を取られていたこと。

 彼女の手柄を、あたかもエリオットが立役者であるか、あるいは自身の功績であるかのように言いふらされていたこと。

 そして、先日の令嬢たちの茶会でエリオットの激しい女遊びの噂を聞いてしまったこと……。

 すべてを話し終え、ミラジェーンはエースを見上げた。


 迷子の子どものような不安げな表情に、エースは泣きたくなったが、黙ったまま膝の上で拳を握りしめた。


「……殿下は、噂をご存じでしたか?」


 ささやくようなミラジェーンの言葉に、エースはゆっくりと口を開いた。


「うん。知ってた」

「……では、それらが嘘かどうかもご存じなのですか?」

「知っている」


 ミラジェーンは口を開きかけて閉じ、俯いた。

 しばらく黙り込んでから顔を上げたが、視線はエースではなく、目の前のよく手入れの行き届いた花々に向けられていた。


「……火のないところに、噂は立ちませんのよね」


 エースはゆっくりと立ち上がり、花壇へと向かった。

 そして近くにいた侍女に指示し、黄色いユリとワスレナグサを切らせた。


「ミラ、君はどっちが好き?」


 突然の問いに、ミラジェーンは困惑した面持ちでエースを見上げた。

 エースはいつもと変わらぬ穏やかな表情で、ミラジェーンを見ていた。


「えっと……ワスレナグサでしょうか」

「では、これを君に。今のドレスの色にもよく似合うよ」


 そう言って、エースはワスレナグサをミラジェーンの髪に挿した。


「あの、殿下?」

「ワスレナグサの花言葉は『真実の愛』だ。君が真実を求めるなら、俺はそれを差し出す。こちらの黄色い百合の花言葉は『虚偽』。優しい嘘を求めるのであれば、俺は君のために道化になる」


 ミラジェーンは息を呑んだ。

 先日リサーナに言われた「それでこそ、ミラ様ですわ」という言葉を思い出したからだ。


「……殿下は、わたくしに真実を知ってほしいと、真実を追い求めてほしいと思われますか?」


 思わず口をついた問いに、エースは微笑んで首を振った。


「いや? 言っただろう。俺は妾でもなんでもいいと。君が愚鈍な男に神経をすり減らし、泣き疲れたところにつけ込めるのなら、それはそれで構わないよ」

「殿下、正直に言ってはダメなやつですわ」


 ミラジェーンは疲れたように微笑んだ。

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