婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで

29.蛇とカエル

 夏の終わりに近い、ある晩。

 王城のダンスホールでは盛大なパーティが催されていた。

 主催が王家であるため、国王夫妻はもちろん、次期国王である第一王子アッシュと婚約者のルーシーも非常に忙しかった。


 エースも忙しくはあったが、四人に比べればさほどでもない。

 どちらかと言えば来年に向けて、辺境伯らに挨拶し日程について話を振っておいたり、国王夫妻らの手が行き届かない分、ゆったりと歩き回って様子を見たりと、比較的自由に過ごしていた。


「ミラ、疲れてはいない?」

「大丈夫です、殿下」


 何より彼の隣には、ミラジェーン・ブライズ侯爵令嬢がエースとそろいの意匠のドレスで付き添っていたため、彼は目に見えて浮かれていた。


 ミラジェーンのドレスはエースの髪の色に合わせた明るい銀色で、裾には王家の紋章に組み込まれている竜と、それを示すリンドウの刺繍が施されていた。ウエストを絞る幅広のリボンは艶やかな紫で、エースの瞳の色を映していた。


 エースが着用しているスーツのネクタイもミラジェーンの瞳の色であり、胸元のハンカチーフは迎えに行った際にミラジェーンから贈られた刺繍入りの品であった(刺繍はほんの少し上達していた)。

 二人が並んで歩くと各所から祝いの言葉や労いの言葉がかけられ、ミラジェーンは少し気まずそうにしたが、エースは笑顔でそれらを受け取っていた。


「ありがとうございます。長年の想いが報われました」

「今後も、彼女ともどもよろしくお願いいたします。近いうちに卿の領地へご挨拶に参りますので」

「彼女の手腕を生かせるよう、努めます」


 そうして挨拶回りを終えたころ、エースはバルコニーに人影があることに気づいた。


「ミラ、知人に挨拶をしてくるから、ご家族と待っていてもらえるかい?」

「私もご一緒しますよ?」

「いや、俺一人で行きたい。浮気ではないから、安心して待っていてほしい」

「そ、そんな心配はしておりません……」

「そう?」


 エースは自身の腕に添えられたミラジェーンの手を上から強く握り、ブライズ侯爵のもとへと彼女を送り届けた。

***

< 71 / 75 >

この作品をシェア

pagetop