非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
肆.夜に散る赤い花
単独任務最後の夜。日付を跨ぐ直前に、椛は暁の部屋へと忍び込んだ。
いつもは夜遅くまで起きている暁が、今夜はなぜか早めに眠りについた。
だから、これが暁を仕留める最後のチャンスだった。
なるべく音を立てないようにしながら、薄暗い部屋の中を暁の頭のほうへと移動する。
枕元に跪いてかなり接近しても、暁は目を覚ます気配がない。
殺し屋ならもう少し眠りが浅いものだと思うが、暁は同業者として心配になるほどぐっすりと寝ている。
ゴクリと唾を飲み込むと、椛は静かに刀を抜いた。
仕留めるなら、これが最後のチャンス。これを逃せば、椛はもう不知火家には戻れない。
銀の刃の切先を、暁の喉元に突きつける。肌を傷付けるすれすれのところまでが刀を近付けると、目元に影を落とす長い睫毛がわずかに揺れた。一瞬ドキッとしたが、暁が目を覚ますことはなかった。
間近で見れば、暁は眠っていても整った顔をしている。
暁の寝顔を静かに見下ろしながら、椛は刀の柄を握る手に力を込めた。
すぐに、じわっと手のひらに汗をかく。
真っ直ぐに振り下ろして横に一搔き。やり方がわからないわけではないのに、思い切ることができない。
刀を握る右手が、さっきからずっと細かに震えているのだ。そこに左手を添えても、なかなか震えは止まらない。
そうしている間にも、刻一刻と時間は過ぎる。