非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
(はやく、はやくしなければ……)
両手で刀を握りしめたまま、ぎゅっと目を閉じる。そのとき、突然、右の手首がつかまれた。
「目を開けておかなければ、狙いは定まらないぞ」
くつりと笑う声に、椛は驚きとともに目を開く。その瞬間、ニヤリと口角を上げた暁と目が合った。
暗がりの中でもはっきりとわかるほど愉しそうな笑みに、椛の血の気が引いていく。
首元に刀を突き付けられて笑うなんて、常人の精神ではあり得ない。それだけでなく、暁は椛が刃を向けていること自体に驚いている様子がない。
暁は眠ったフリをしているだけだったのだ。
「いいのか、殺らなくて」
椛を挑発するようにそう言って、暁が刀の先を自分の首に押し付ける。軽く当たった剣先が暁の肌を傷付け、細い鮮血が首筋を伝った。その赤色に、椛の神像が早鐘を打ち始める。
「いつから、わたしがあなたを狙っていると……?」
震える声で訊ねると、暁が目元をすっと細める。
「おまえがここに来た日から」
「初めから……?」
暁の言葉に、椛は大きく目を瞠った。
団子屋の前で呼吸困難になって倒れかけた日。暁は、兄姉たちから殴られた椛の腕の痣を見て、椛を匿うと申し出てきた。女避けのため、暁のかりそめ夫婦になることを条件に。
警戒心のなさには呆れたが、暁の椛に対する態度は好意的で、彼が椛を疑っているとは思えなかった。
けれど、彼は黒羽の赤鴉。愚鈍なフリをしていただけで、椛が思うほど阿呆ではなかった。
油断をさせて、最後に暁を欺く。そのつもりだったのに、椛のほうが欺かれていた。
それも、初めから――