非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
「暁さんは怒ってくれましたが、あの方が言ったことは何も間違っていません」
「何の話だ?」
椛のぼやきに顔を上げた暁が、不思議そうに首をかしげる。
「さっきの女性のお客様が言っていたことです。地味で仕事もできないし、兄姉たちと比べてどうしようもない出来損ない。かりそめの妻の身ではありますが、暁さんには分不相応です……」
そう言いながら、椛は自分で口にした言葉に少し傷付いていた。自分が出来損ないであること以上に、暁の妻役としても相応しくないことに。
「俺はそんなふうには思わないけどな」
うつむく椛の頬に、暁が手を差し伸べてくる。
鍛えられた固い手のひらが、椛に触れるときはとてもやさしい。
「おまえは椛の花を見たことあるか?」
唐突に訊ねられて、椛は小さく首を振る。
「秋に色付く紅葉もいいが、俺は春に咲く椛が好きだ。あまり目立たないが、赤の花が綺麗で可愛い。春になったら見せてやろう」
暁の口にした「好き」の言葉と春の約束。それに、椛の心が揺れ動く。
椛に与えられた期限は今日が終わるまで。それなのに、先の約束なんて困る。
胸にせつなさが込み上げてきて、暁から視線をはずす。
(やっぱりわたしは、どうしようもない出来損ない)
きっとこのまま最後まで、懐刀は抜けずに終わるだろう。