恋は手のひらの上で
その“だいじょうぶ”は、信用できない
会議室の空気は、今までにないほど張りつめていた。
東央ヘルスケア本社、最上階。
これまでの会議室とは、空気の重さが違う。
楕円の長机の向こうに並ぶのは、医療統括責任者、品質保証部長、薬事管理室長、財務本部長。
見たこともない顔ぶれだというのに、重厚感だけはしっかり漂ってくる。
朝比奈側も責任者ばかりだ。
それでも、東央ヘルスケア側の重みは別格だった。
資料をめくる音だけが響く。
それぞれパソコンやタブレット、ペンを持ちメモをとる準備をしていて、準備は万端のようだ。
私は戦闘靴でもあるヒールを履いていた。
背筋を伸ばし、怖いけど、できるだけ視線を上げた。
正面に立つ椎名さんと目が合う。
昨晩、「おやすみなさい」を交わしたあの瞬間の安心感が蘇ってくる。
ほんの一瞬のアイコンタクト。
確認の意味を込めた、静かな合図。
“大丈夫”。そう言われているみたいだった。
椎名さんが口を開く。
「本日は、お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。また、急遽ではありますが、会議時間の調整をしてくださった各部署の皆様に、厚く御礼を申し上げます」
深く一礼を挟むことで、空気が少しだけ和らぐ。
彼はすぐに続けた。
「では、我が社の東央ヘルスケアと朝比奈化粧品との共同開発、医薬部外品・朝用保湿ジェルの最終承認をご判断いただきたく存じます」
『医薬部外品』。
その言葉だけで、空気が一段重くなる。