恋は手のひらの上で
少し間を置いて、椎名さんが一度だけハンドルを握り直し、そしてうなずいた。
「その“強さ”を引き出せるよう、俺も頑張ります」
言葉は柔らかく、確かに胸に響く。
私は小さく笑い、畳んだブランケットを抱えた。
「…それは、ずるいです」
思わず漏れた言葉。
自分でも、子どもみたいな言葉だと思う。
椎名さんが、ほんの少し目を細めた。
「なにがですか?」
…分かってるくせに。
「そういう言い方ですよ」
目は、もう合わなかった。
耐えきれなくて、私から逸らした。
「仕事の顔で、そんなこと言ったらだめです」
「…まあ、なにしろ相手は“高嶺の花”ですから」
「椎名さん!」
向こうから、低く、静かに笑う声が聞こえて。恥ずかしくなってしまった。
でも彼はただ楽しそうだった。
瞳はやわらいでいる。
きっと、全部分かっているだろう。
私が照れていることも、言葉を探していることも。
でも無理に追いかけてこない。
それが、余計にずるいのだ。
ドアを開けると、夜の空気がひんやりと頬に触れた。
一歩外に出て、窓越しに言う。
「椎名さん、ちゃんと寝てくださいね」
「俺は寝ますよ。寝なくちゃいけないのは、西野さんのほう」
寝不足なのは、見透かされている。
「おやすみなさい」と言葉を交わすと、車がゆっくりと走り出した。
テールランプが角を曲がるまで、なぜか見送ってしまった。
そのとき、スマホが震える。
高橋からだった。
『原因、ほぼ特定。明日朝イチ説明する』
すぐ次に、もう一通。
『無事着いた?』
短い。でも、温度が違う。
私はマンションのエントランスの前で立ち止まる。
今日、何かが少し動いた。
仕事も。人も。
夜は静かで、でも確かに熱を持っていた。
「その“強さ”を引き出せるよう、俺も頑張ります」
言葉は柔らかく、確かに胸に響く。
私は小さく笑い、畳んだブランケットを抱えた。
「…それは、ずるいです」
思わず漏れた言葉。
自分でも、子どもみたいな言葉だと思う。
椎名さんが、ほんの少し目を細めた。
「なにがですか?」
…分かってるくせに。
「そういう言い方ですよ」
目は、もう合わなかった。
耐えきれなくて、私から逸らした。
「仕事の顔で、そんなこと言ったらだめです」
「…まあ、なにしろ相手は“高嶺の花”ですから」
「椎名さん!」
向こうから、低く、静かに笑う声が聞こえて。恥ずかしくなってしまった。
でも彼はただ楽しそうだった。
瞳はやわらいでいる。
きっと、全部分かっているだろう。
私が照れていることも、言葉を探していることも。
でも無理に追いかけてこない。
それが、余計にずるいのだ。
ドアを開けると、夜の空気がひんやりと頬に触れた。
一歩外に出て、窓越しに言う。
「椎名さん、ちゃんと寝てくださいね」
「俺は寝ますよ。寝なくちゃいけないのは、西野さんのほう」
寝不足なのは、見透かされている。
「おやすみなさい」と言葉を交わすと、車がゆっくりと走り出した。
テールランプが角を曲がるまで、なぜか見送ってしまった。
そのとき、スマホが震える。
高橋からだった。
『原因、ほぼ特定。明日朝イチ説明する』
すぐ次に、もう一通。
『無事着いた?』
短い。でも、温度が違う。
私はマンションのエントランスの前で立ち止まる。
今日、何かが少し動いた。
仕事も。人も。
夜は静かで、でも確かに熱を持っていた。