引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
一章 新たな始まりは良き知らせから
エレスティアはその知らせを受けていた際、静かに驚きをあらわにしていた。十七歳の面影がまだ残る、ハニーピンクの前髪がかかった大きな若草色の目は、まん丸くなったままだ。
そばでは『皇妃第一侍女』と新たにできた黄金のバッジをつけたアイリーシャ・ロックハルツが、感動して口に両手をあて目を潤ませている。
「――というわけですので、しばらくは安静にお過ごしください」
「はい。ありがとうございました」
どうにかお礼は伝えたものの、気を少しでも抜いてしまったら、エレスティアははくはくと呼吸が乱れてしまっていただろう。
説明をし終えた医師は騎士に案内されて退出した。
彼と入れ替わる形で、壁際で待機していた三名の侍女が、エレスティアの座る椅子の前に進み出てくる。
「わたくしたちも妊婦向けにしておくよう準備の手配に行ってまいります」
「飲み物もすべて入れ替えます」
「ありがとうございます」
「食事につきましては、わたくしのほうから厨房に伝えてまいりますわ」
単身の外国公務から戻ったのち、エレスティアは侍女を選定した。侍女になったのは心獣に乗った際の操作や、魔法実践指導を担当しているアイリーシャ。そして他三名の侍女については、共に臨時侍女兼護衛として付いてくれた、アイリーシャが率いる女性班の中から三名が選ばれた。
アイリーシャが率いる女性班の他のメンバーは、貴族令嬢としての活動に加えて多忙な軍人魔法師の活動、そして結婚予定、などもあり侍女として常駐が難しい。
身の回りのことだけでなく、仕事の補佐業も多いのでもう少し侍女は必要だ。同班から残りも選出するか、令嬢たちの中からアイリーシャたちが慎重に候補を選ぶか――についてはジルヴェストと協議中だ。
「そう遠くないとは推測しておりましたが……ご懐妊っ、おめでとうございます!」
三名の侍女たちが出ていって扉が閉まった途端、アイリーシャがハニーブラウンの髪を翻し、振り向きざま素早くエレスティアの両手を取ってきた。
「皇室入りされた時から毎晩のようにお役目を果たされ、それなのに子供ができないご不安もあったことと存じます。それが、ついに……! わたくしも自分のことのように嬉しいですわ!」
言いながら、アイリーシャの涙腺が決壊する。
エレスティアは――正直、どう反応していいのか分からず固まってしまった。彼女が泣いてこちらの様子が見えていない状況には救われている。
側室の間、夜伽は一切なかった。皇妃になったあと、古代王ゾルジアが現われて魔力暴走は起こらないと判明したのちに二人はようやく初夜を迎えた。とはいえそれは彼女には知らせていない内容だし、でも自分は嘘が下手だし、どうしたら……と思った時だった。
扉が開いて、やや疲れた様子のアインスが入ってきた。
彼は状況を目に留めた際に首を傾げたものの、少し考えてピンときたのか、見かねた様子でアイリーシャに歩み寄ってハンカチを渡す。
「涙をぬぐうくらいしたらどうですか……」
「そんなことやっている場合ではないのですっ」
「令嬢としてどうかと思いますよ」
「この部屋に殿方はアインス様しかいませんので、問題ありませんわ」
「それはどういう意味ですかね?」
またしても二人の言い合いが始まる。
だが、エレスティアは『うっ』という声を必死で出さないように努力していたので、普段のように仲裁にも入れない。
(実のところ、大王様が現れるまで私たち〝夫婦の関係〟なんてなかったのよね……)
魔力は生まれて数年内に完全に発現する。しかし、エレスティアは異例なことに魔力が遅咲きで開花した。その莫大な魔力は皇帝を超えるのではないかと憶測されたが、魔法師たちと魔力の反応も違いすぎた。
制御ができないし、魔力の動きも謎である。
魔力暴走という最悪の状況を引き起こさないためにも、そして彼女の身体を考え、魔力分析が解決するまでは安全のため初夜はしないでいたのだ。
だが少し前、ひょんなことから古代王ゾルジアが召喚されたことにより、魔力暴走は確実にしないことが判明した。
そこで先日、エレスティアとジルヴェストはようやく念願の初夜を迎えのだ。
「皇妃、いえエレスティア様。初のお子のご懐妊、誠におめでとうございます」
アインスが美しい所作で一礼した。
「ありがとうございます、アインス様。私が急に口を押さえた時には、驚かせてしまってごめんなさい」
「わ、私よりあの小鳥が大騒ぎでしたから」
視線を素早く逃がしたアインスの頬が、珍しく赤い。
「まったく。自分の主人のことなのに、体調ƒを感知できないのはどうかと思います」
「そうですわよね。古代王様がピィちゃんを別室に連れていかなければ、医師も困っていたことでしょうね」
そばでは『皇妃第一侍女』と新たにできた黄金のバッジをつけたアイリーシャ・ロックハルツが、感動して口に両手をあて目を潤ませている。
「――というわけですので、しばらくは安静にお過ごしください」
「はい。ありがとうございました」
どうにかお礼は伝えたものの、気を少しでも抜いてしまったら、エレスティアははくはくと呼吸が乱れてしまっていただろう。
説明をし終えた医師は騎士に案内されて退出した。
彼と入れ替わる形で、壁際で待機していた三名の侍女が、エレスティアの座る椅子の前に進み出てくる。
「わたくしたちも妊婦向けにしておくよう準備の手配に行ってまいります」
「飲み物もすべて入れ替えます」
「ありがとうございます」
「食事につきましては、わたくしのほうから厨房に伝えてまいりますわ」
単身の外国公務から戻ったのち、エレスティアは侍女を選定した。侍女になったのは心獣に乗った際の操作や、魔法実践指導を担当しているアイリーシャ。そして他三名の侍女については、共に臨時侍女兼護衛として付いてくれた、アイリーシャが率いる女性班の中から三名が選ばれた。
アイリーシャが率いる女性班の他のメンバーは、貴族令嬢としての活動に加えて多忙な軍人魔法師の活動、そして結婚予定、などもあり侍女として常駐が難しい。
身の回りのことだけでなく、仕事の補佐業も多いのでもう少し侍女は必要だ。同班から残りも選出するか、令嬢たちの中からアイリーシャたちが慎重に候補を選ぶか――についてはジルヴェストと協議中だ。
「そう遠くないとは推測しておりましたが……ご懐妊っ、おめでとうございます!」
三名の侍女たちが出ていって扉が閉まった途端、アイリーシャがハニーブラウンの髪を翻し、振り向きざま素早くエレスティアの両手を取ってきた。
「皇室入りされた時から毎晩のようにお役目を果たされ、それなのに子供ができないご不安もあったことと存じます。それが、ついに……! わたくしも自分のことのように嬉しいですわ!」
言いながら、アイリーシャの涙腺が決壊する。
エレスティアは――正直、どう反応していいのか分からず固まってしまった。彼女が泣いてこちらの様子が見えていない状況には救われている。
側室の間、夜伽は一切なかった。皇妃になったあと、古代王ゾルジアが現われて魔力暴走は起こらないと判明したのちに二人はようやく初夜を迎えた。とはいえそれは彼女には知らせていない内容だし、でも自分は嘘が下手だし、どうしたら……と思った時だった。
扉が開いて、やや疲れた様子のアインスが入ってきた。
彼は状況を目に留めた際に首を傾げたものの、少し考えてピンときたのか、見かねた様子でアイリーシャに歩み寄ってハンカチを渡す。
「涙をぬぐうくらいしたらどうですか……」
「そんなことやっている場合ではないのですっ」
「令嬢としてどうかと思いますよ」
「この部屋に殿方はアインス様しかいませんので、問題ありませんわ」
「それはどういう意味ですかね?」
またしても二人の言い合いが始まる。
だが、エレスティアは『うっ』という声を必死で出さないように努力していたので、普段のように仲裁にも入れない。
(実のところ、大王様が現れるまで私たち〝夫婦の関係〟なんてなかったのよね……)
魔力は生まれて数年内に完全に発現する。しかし、エレスティアは異例なことに魔力が遅咲きで開花した。その莫大な魔力は皇帝を超えるのではないかと憶測されたが、魔法師たちと魔力の反応も違いすぎた。
制御ができないし、魔力の動きも謎である。
魔力暴走という最悪の状況を引き起こさないためにも、そして彼女の身体を考え、魔力分析が解決するまでは安全のため初夜はしないでいたのだ。
だが少し前、ひょんなことから古代王ゾルジアが召喚されたことにより、魔力暴走は確実にしないことが判明した。
そこで先日、エレスティアとジルヴェストはようやく念願の初夜を迎えのだ。
「皇妃、いえエレスティア様。初のお子のご懐妊、誠におめでとうございます」
アインスが美しい所作で一礼した。
「ありがとうございます、アインス様。私が急に口を押さえた時には、驚かせてしまってごめんなさい」
「わ、私よりあの小鳥が大騒ぎでしたから」
視線を素早く逃がしたアインスの頬が、珍しく赤い。
「まったく。自分の主人のことなのに、体調ƒを感知できないのはどうかと思います」
「そうですわよね。古代王様がピィちゃんを別室に連れていかなければ、医師も困っていたことでしょうね」