引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
アイリーシャが鼻を啜りながら言う。
(私が普通の魔法師ではないように――あの子も、少し、違うのかもしれない)
帰国した際、ジルヴェストの心獣と一対一で向き合った。
――あれは、我々と違う。
普段聞こえてくるジルヴェストの声ではなく、最後に告げられた心獣自身のその声を、たびたび思い出している。
心獣は白い狼の姿をしている。それなのに、ピィちゃんは鳥だ。
そして本来の姿は鳳凰だが、普段は省エネモードのようにエレスティアの中に魔力を戻し、ただの小鳥のように愛らしく飛び回っている。
何か違うのかもしれないが、それでもこれまでと変わらず愛おしい自分の心獣(相棒)だ。
(私の魔力を受けているから少し違いはあるかもしれないけど、いずれ分かる日がくるのかもしれない)
今は、それよりも初めての我が子だ。
エレスティアは、愛おしくお腹を撫でた。一度目の人生の記憶が戻った時、自分がこうして母になる日をこれほどまで待ち望み、そして喜べる日が来るなんて、思っていなかった。
「ジルヴェスト様は?」
きっと疲れている様子は彼が原因だろう。ジルヴェストのことだから、体調不良の知らせを受けて皇国一の心獣に乗り、転移ゲートを高速でくぐって駆けて戻ってきたのかしれない。
「ご想像通り、先程戻られました。初めての懐妊ですから、医師からまだ説明を受けられている可能性を考えて仕事部屋に押し込みました」
「ふふ、そんなことできるのはアインス様だけでしょうね」
「今から会いに行かれますか?」
エレスティアの様子が先程よりも良いことを視認したのち、アインスが手を差し出し、提案する。
彼のレアな微笑に、エレスティアはつい少女みたいな笑顔を返してしまった。
「はいっ、よろしければすぐ連れていってくださいませ」
「御意に」
アインスが恭しくエレスティアの手を取った。
だが直後、アイリーシャが横から割り込んできた。アインスにタックルをかまし、代わりにエレスティアの手を取る。
「あら……」
「どういうつもりですかね、アイリーシャ嬢?」
「エレスティア様の騎士なら、わたくしも適任だと思うのです。女騎士、いかがです?」
「却下です。あなたが専属の護衛騎士になろうものなら、エレスティア様の精神的な負担が増えます」
「どういう意味ですの!?」
「新聞や雑誌の切り取りをまずやめてみては?」
二人がぎゃーぎゃー言い合う。
(ロックハルツ伯爵から、婚期が遠のくから侍女にしてほしいと提案書が届いたのよね……)
それもあって、ジルヴェストのほうで早速侍女の選定が行われたというわけだ。
皇帝の執務室にいるとのことで、専属の護衛騎士であるアインス、侍女のアイリーシャを連れ、扉前で待っていた護衛たちと合流して向かった。
目的の場所に辿り着くと、警備にあたっていた騎士たちがハッとしたように見てきた。懐妊の件はあっという間に広まったらしい。
騎士たちは声をかけたい様子だったが、ぐっとこらえ扉を開く。
「皇妃様がいらっしゃいました」
騎士の声かけがあった。
室内の風景がエレスティアの目に映る。奥にある大きくて横長の執務机――そこの前には、先程出ていった医師の姿があった。少し目を丸くしている。
どんな魔法を使ったのか、執務机からあっという間に二人の視線の間にジルヴェストが瞬間移動した。
彼のまばゆい金の髪が揺れる。手を伸ばし、駆けてきた彼の手がエレスティアに届くまで、あっという間だった。
「エレスティア!」
ジルヴェスト様、そう言おうとエレスティアが口を開いた時には、彼の腕の中に囲われていた。
愛する人の力強い声が心ごと叩(たた)く。彼の全身からも喜びが伝わってきて、エレスティアはつい目が潤んでしまった。
(こんなに喜んでくださるなんて)
「嬉しいっ、俺たちの初めての子だっ」
「きゃっ」
ジルヴェストが抱き上げた。慌てる医師と、周囲の男たちの様子など耳にも入っていないのか、彼はエレスティアをぐるぐると回す。
「ありがとうエレスティア、俺に新しい家族ができた」
「っ」
その言葉に、エレスティアは感動が押し寄せた。泣きそうになって唇を咄嗟に強く閉じる。
(彼は少年時代に一人取り残された――)
皇族の直系は、ジルヴェストしかいなかった。
剣の鍛錬でアインスのバグズ家が任命を受け、剣を交える日々の中で彼とは兄弟のように育ったが、ジルヴェストにとって家族は両親だけ。
それが国境での魔獣との戦いで急逝し、ジルヴェストは突然〝王〟となった。
(よかった)
胸がじーんっと熱くなる。喜びのあまり抱き上げた夫に、思わず表情が緩んだ。
「初めての子だ」
「はい」
「嬉しい。最高に、嬉しい知らせだ」
「私も嬉しいです」
(私が普通の魔法師ではないように――あの子も、少し、違うのかもしれない)
帰国した際、ジルヴェストの心獣と一対一で向き合った。
――あれは、我々と違う。
普段聞こえてくるジルヴェストの声ではなく、最後に告げられた心獣自身のその声を、たびたび思い出している。
心獣は白い狼の姿をしている。それなのに、ピィちゃんは鳥だ。
そして本来の姿は鳳凰だが、普段は省エネモードのようにエレスティアの中に魔力を戻し、ただの小鳥のように愛らしく飛び回っている。
何か違うのかもしれないが、それでもこれまでと変わらず愛おしい自分の心獣(相棒)だ。
(私の魔力を受けているから少し違いはあるかもしれないけど、いずれ分かる日がくるのかもしれない)
今は、それよりも初めての我が子だ。
エレスティアは、愛おしくお腹を撫でた。一度目の人生の記憶が戻った時、自分がこうして母になる日をこれほどまで待ち望み、そして喜べる日が来るなんて、思っていなかった。
「ジルヴェスト様は?」
きっと疲れている様子は彼が原因だろう。ジルヴェストのことだから、体調不良の知らせを受けて皇国一の心獣に乗り、転移ゲートを高速でくぐって駆けて戻ってきたのかしれない。
「ご想像通り、先程戻られました。初めての懐妊ですから、医師からまだ説明を受けられている可能性を考えて仕事部屋に押し込みました」
「ふふ、そんなことできるのはアインス様だけでしょうね」
「今から会いに行かれますか?」
エレスティアの様子が先程よりも良いことを視認したのち、アインスが手を差し出し、提案する。
彼のレアな微笑に、エレスティアはつい少女みたいな笑顔を返してしまった。
「はいっ、よろしければすぐ連れていってくださいませ」
「御意に」
アインスが恭しくエレスティアの手を取った。
だが直後、アイリーシャが横から割り込んできた。アインスにタックルをかまし、代わりにエレスティアの手を取る。
「あら……」
「どういうつもりですかね、アイリーシャ嬢?」
「エレスティア様の騎士なら、わたくしも適任だと思うのです。女騎士、いかがです?」
「却下です。あなたが専属の護衛騎士になろうものなら、エレスティア様の精神的な負担が増えます」
「どういう意味ですの!?」
「新聞や雑誌の切り取りをまずやめてみては?」
二人がぎゃーぎゃー言い合う。
(ロックハルツ伯爵から、婚期が遠のくから侍女にしてほしいと提案書が届いたのよね……)
それもあって、ジルヴェストのほうで早速侍女の選定が行われたというわけだ。
皇帝の執務室にいるとのことで、専属の護衛騎士であるアインス、侍女のアイリーシャを連れ、扉前で待っていた護衛たちと合流して向かった。
目的の場所に辿り着くと、警備にあたっていた騎士たちがハッとしたように見てきた。懐妊の件はあっという間に広まったらしい。
騎士たちは声をかけたい様子だったが、ぐっとこらえ扉を開く。
「皇妃様がいらっしゃいました」
騎士の声かけがあった。
室内の風景がエレスティアの目に映る。奥にある大きくて横長の執務机――そこの前には、先程出ていった医師の姿があった。少し目を丸くしている。
どんな魔法を使ったのか、執務机からあっという間に二人の視線の間にジルヴェストが瞬間移動した。
彼のまばゆい金の髪が揺れる。手を伸ばし、駆けてきた彼の手がエレスティアに届くまで、あっという間だった。
「エレスティア!」
ジルヴェスト様、そう言おうとエレスティアが口を開いた時には、彼の腕の中に囲われていた。
愛する人の力強い声が心ごと叩(たた)く。彼の全身からも喜びが伝わってきて、エレスティアはつい目が潤んでしまった。
(こんなに喜んでくださるなんて)
「嬉しいっ、俺たちの初めての子だっ」
「きゃっ」
ジルヴェストが抱き上げた。慌てる医師と、周囲の男たちの様子など耳にも入っていないのか、彼はエレスティアをぐるぐると回す。
「ありがとうエレスティア、俺に新しい家族ができた」
「っ」
その言葉に、エレスティアは感動が押し寄せた。泣きそうになって唇を咄嗟に強く閉じる。
(彼は少年時代に一人取り残された――)
皇族の直系は、ジルヴェストしかいなかった。
剣の鍛錬でアインスのバグズ家が任命を受け、剣を交える日々の中で彼とは兄弟のように育ったが、ジルヴェストにとって家族は両親だけ。
それが国境での魔獣との戦いで急逝し、ジルヴェストは突然〝王〟となった。
(よかった)
胸がじーんっと熱くなる。喜びのあまり抱き上げた夫に、思わず表情が緩んだ。
「初めての子だ」
「はい」
「嬉しい。最高に、嬉しい知らせだ」
「私も嬉しいです」