意地悪な副社長に狂うほど愛される

ようやく

「まったく何処に行くつもりだったのか」

副社長は私のキャリーバッグを玄関に入れた。

「すみません」

私たちの間に何も障害がなくなった今、どうしたら良いのか、わからず結局、副社長のマンションに戻った。
副社長は私が逃げると思ったのだろう。
あれから手をまったく離さない。
ソファに私を座らせると自分も隣りに座った。
心拍数が一気に上がる。

「それで、しがらみがなくなった今、キミの本心が知りたいんだが?」
「わ、私は……」

副社長が私をまっすぐに見つめる。
私は大きく深呼吸した。
もう自分の気持ちに嘘はつけない。

「私は8年間、あなたのことがずっと好きです」

そう伝えると副社長は大きく息を吐いて下を向いた。

「副社長?」
「待ってくれ」
「え?」

この後に及んで待ってなど、ひどい。
私と手を繋いでない方の手で副社長が口元を覆った。

「副社長?」
「ああ、悪い」

そう言って顔を上げた副社長の顔は真っ赤だった。

「副社長、その顔……」
「うるさい」

可愛いーー

「まさか照れてるんですか」
「俺が照れたら悪いのか」

甘いーー
甘すぎるーー

こんな副社長、見たことなさ過ぎて思わずにやけてしまう。

「何を笑ってるんだ」
「何でもないです」

ふぅと再び大きく息を吐いた副社長は私を真剣な目で見つめる。

「じゃあ俺たちは付き合うってことで良いんだな」

副社長からそんな確認があるとは思わず、胸がじわっと温かくなった。
嬉しさを噛みしめていると副社長の眉間に皺が寄った。

「答えろ」
「はい! よろしくお願いします」

私は思わず頭を下げてしまった。

「まったく、なんだそれ」
「すみません」

恥ずかしくて甘いこの状況。
心拍数が異常な数値を示していると思う。

「どうした?」
「何がです?」
「顔がぽーっとしてる」
「だって嬉しくて」
「嬉しい?」
「両思いになれたことが嬉しくて」

すると副社長はクスッと笑った。

「そんなの8年前からずっとだけど」

私たちはいったいどれだけ遠回りしていたんだろうか。

「なんで、すぐに教えてくれなかったんですか。私のスマホを見たときに言ってくれたら」
「ああ、あれは嬉しかったよ」
「嬉しいって!」
「だって好きな奴が俺のAI作ってたんだから」
「い、言わないで!」

頭が爆発しそうだった。
副社長が顔を近づけてくる。

「本当はすぐにでも言いたかったさ」
「じゃあ、なんで」
「あゆ美が自分をどれだけ好きか味わいたくてね、片想い期間が長かったし」
「そんな! 意地悪すぎる」
「まあ、本当の理由は社長になって迎えに行きたかった、だけど」

副社長は少し遠い目をした。

「誰にも何も文句を言われず、付き合いたかったからね」
「じゃあ、私の為に?」

副社長は私が傷つかないように必死に頑張ってくれていたんだ。
そう思ったら急に愛おしくなり私は気がついたら副社長を抱きしめていた。
骨折していない片手だけで抱きしめた形になったので、男らしさ満載なんだけど。

1度、副社長が離れようとしたので、私はさらにきつく抱きしめた。

「おいおい、ずいぶん積極的だな」
「こうしていたいんです」
「俺は顔が見たいんだけど」

素直に従うと副社長の顔が思ったより近くでドキドキした。

「副社長」
「名前で呼んで」
「え」

思わぬ提案で言葉を失った。

「もう副社長じゃないから」
「そうですけど」
「ずっと副社長と呼ぶつもり?」
「それは……でも、なんで呼べばいいか」
「名前で呼べば良い」
「名前」

副社長が意地悪な笑みを浮かべた。

「しゅ、しゅ」

恥ずかしすぎて顔がさらに熱くなる。

「駿さん」

名前を呼んだ瞬間、唇を塞がれた。
目を閉じると涙が溢れた。
駿さんはその涙を指で拭うと更に深くキスをする。
それは僅かに息を吸うことしか許さないというような激しいもので、私も今までとは違い夢中で駿さんの唇を舌を受け入れた。

「ダメだ。このままだと我慢できなくなる」

ようやく離れた駿さんの息づかいは私と同様荒かった。

「我慢……しないで……ください」

私の言葉に駿さんは目を見張る。
自分で発した言葉に恥ずかしくなり再び自分から唇を奪いにいった。

私にこんなことができるなんてーー
< 61 / 64 >

この作品をシェア

pagetop