最低で大嫌いなあなた、結婚してください

真実

 その後、祥吾が仕事に復帰できたのは一ヶ月半が経った頃だった。

 重役たちからはねぎらいの声を掛けられたが、これまで祥吾がどのように過ごしてきたかを知っている者たちは「そら見た事か」という目をしていた。

 まだ痛みが残るなか溜まった仕事を処理し、新しい男性秘書を迎えて、しばらくは大人しく過ごした。

 けれど家に帰ったあとは、相変わらず鞠花の痕跡を求めてSNSを検索し、看護師や病院など、彼女と関係のありそうな単語を片っ端から調べていった。

 勿論、興信所にも依頼しているが、看護師という職業上、病院が彼女の情報を出す事はない。

 だから鞠花が今まで住んでいたマンションの管理人、隣人、友人、両親が亡くなったのなら、父方と母方の祖父母など、時間は掛かるが外側からジワジワと攻めてもらっているところだった。

 一社だけでは時間がかかるので、祥吾は複数の会社に話を持ちかけ、大金を投じて鞠花を見つけようとしていた。





 二か月後、祥吾は仙台の地を踏んでいた。

 鞠花と初めて出会ったのは八月下旬、それから一か月ほどの交際期間を経て、彼女が失踪、そして祥吾が刺された。

 街はクリスマスムード一色だが、彼は華やかな飾り付けにはいっさい興味を持たず、マップアプリに登録した賃貸マンションに向かって歩を進めていた。

 祥吾はコートのポケットに手を入れ、白い息を吐く。

(思えば、女性のためにここまで行動を起こす事は初めてかもしれない)

 クズ時代は女性を勘違いさせないよう、家には決して上げなかった。

 その代わり、女性が喜びそうな小洒落たレストランやカフェ、ホテルでデートし、後腐れのない関係を築いてきた。

 だから歴代彼女たちと会う時は必ず外で、相手の家を訪ねる事もなかった。

 今までの自分なら「面倒臭い」と思っていただろう。

 なのに鞠花のためならどこまでも行く事ができる。

 たとえ彼女が海外に逃げたとしても、祥吾はためらいなく追いかけていただろう。

 目的のマンションに着いた祥吾は、腕時計を確認してから入り口の壁にもたれ掛かった。

(鞠花に会ったら、なんて言えばいいだろう)

 一方的に去られたのは祥吾のほうだが、鞠花は理由もなく相手を失望させる人ではない。

 きちんと話し合い、分かり合うために、どのように切り出せばお互い感情的にならず話せるか、彼は頭の中で何通りもシミュレートしていた。

 ――と、その時コツコツとヒールの音が聞こえ、不自然に止まった。
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