この恋、予定外。
当たり前みたいに
今日も今日とて、当たり前に騒々しい。
忙しくて、目まぐるしい毎日。

週の半ば。
電話の声が重なり、キーボードの音も落ち着かない速さで行き来している。


私は席に座り、タブレットと資料を行き来させながら、今日の外回りの段取りを頭の中でなぞっていた。

三件。エリアはばらけているけれど、時間を詰めれば回れない距離ではない。午後から夕方にかけて、ほとんど休む間もなく動き続けるスケジュールだった。


数日前のことは、もう引きずらないと決めていた。
決めていた、はずなのに。

ふとした拍子に、背中にそっと触れられた感覚だけが、妙に鮮明に残っている。
人前で泣くなんて、陸上を辞めてから初めてだったかもしれない。


「森川」

桐山課長に呼ばれて顔を上げる。

「今日の三件、開発と一緒に行け」

「えっ」

思わず聞き返してしまった。

「試作のフィードバックも拾いたい。向こうもLastFitの調整で動いてるし、ちょうどいいだろ」


開発と一緒。その一言で、頭に浮かぶ顔はひとつしかなかった。

「分かりました」

いつも通りに頷いたつもりだったけれど、胸の奥がわずかに騒がしい。
それをごまかすように、私は視線をタブレットへ落とした。


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