悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
第八章 幸福の裏に忍ぶ闇
「姉ちゃん、姉ちゃんってば!」
「……え?」
「何ぼーっとしてんの? 手止まってるよ」
「わっ、ごめん」
今は収穫した梨の仕分け作業をしているところだ。
出荷するものとできないものとを仕分けているところだが、つかさはつい手が止まってしまう。
「疲れてない?」
「大丈夫! ちょっと考え事してただけ」
「もしかして、頼久さんと喧嘩したの?」
芯に突っ込まれてつかさは危うく梨を落としそうになる。
「な、なんで!?」
「なんとなく」
「喧嘩なんかしてないよ」
「本当に?」
芯は訝しそうに姉を見つめる。まだつかさの結婚生活を心配しているようだ。
「なんでもないから!」
本当はなんでもなくはない。
昨日のキスを思い出すたびに顔から火が出そうになる。
三十にもなってキスくらいで照れるのはおかしいのかもしれない。
だが恋愛経験ゼロのつかさには大事件なのだ。
今朝の頼久はいつも通りだった。もはや日課となった梨スムージーを作り、それを飲んで仕事に向かった。
特に昨日のキスについて何も触れてこなかった。
(頼くんが何を考えてるのか全然わからない……! ていか私、もしかしなくても告白された?)
『僕はずっと、つかさのそういうところが好きだった』
『君の思いやりがあって優しいところが、ずっと』
『いい加減僕のことを男として見てほしい』
頼久の言葉を思い出し、つかさは一人で身悶えていた。