『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
4.夫が謝らない理由
虎ノ門にあるOGセラミック本社に出社した航生は、エレベーターで役員専用フロアに上る。執務室のドアを開けると秘書がコーヒーを淹れていた。
「大須賀室長、おはようございます」
「おはよう」
声を掛けられた航生は軽く返しデスクに直行する。無言でパソコンに向かっているとテーブルの上にコーヒーが置かれた。
「今日のスケジュールの確認、されますか?」
「不要だ。ぜんぶ把握してる」
「ですよねー。承知しました」
毎朝繰り広げられているこのやりとり。いつものように笑みを浮かべているのは航生の秘書の土方。年は三十歳でオランダ駐在時に知り合った。有能さと口の堅さが気に入り転勤のたびに同行させ、日本に帰ってきてからは正式に秘書として登用した。
中肉中背で丸い顔、いかにも無害そうな顔をしているこの男は実はなかなかの曲者なのだが、航生にとっては社内で唯一信用の置ける人間でもあった。
「ちなみに、午後は社長と打ち合わせですけど。奥さんとの結婚の件、もう文句言わなれなくなったんですよね」
「ああ。あの人は、俺が会社のためになればそれいいんだよ」