『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
エピローグ


「えぇと、これでぜんぶかな」

 早朝のリビングで、紗月はバックの中身をひとつひとつチェックする。

「昨日の内に、大体の物は式場に持ち込んであるから大丈夫だろう」

 航生はシャツのボタンを掛けながら、こちらに近づいてきた。

「わかってるけど、なんか気になっちゃって」

「俺はここに指輪がないのがどうも落ち着かない」

 紗月が見上げると、航生は苦笑して左手をひらひらと動かした。

 東京の桜がちょうど見ごろを迎え、柔らかな春の気配に包まれた今日、紗月と航生は結婚式を挙げる。

 婚姻届を出してから九か月、常に身に着けていた結婚指輪も今日は特別だ。挙式での指輪交換に使うため、丁寧にクリーニングを済ませ、リングケースに入れて大切にバッグにしまってあった。

 ふたりが式場に選んだのは、航生が『君が好きそうだ』と見つけてきた、都内にあるゲストハウスだった。

 実際に足を運んでみると、都会の喧騒から離れた静かな場所に立つ建てられた一軒家は南フランスの邸宅のようで雰囲気がとてもよかった。担当の女性プランナーの人柄がいいのも決め手となった。
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