かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

ジートキフ夫人の失踪

 ✻ ✻ ✻


「申し訳ありません」

 ダニールとマルーシャは、宿の主人に頭を下げていた。その脇でしゃくりあげるミュシカの涙をラリサが拭いてやっていて、イグナートも神妙な顔で直立不動だ。

 宿にこもって二日目。
 ミュシカは頑張っていい子にしていた。おまじないも練習したし、部屋で大人しく遊んだ。だから少し、力が余っていたのだ。
 イグナートも調査から戻ったし、みんなで食事をいただこうかと廊下に出た。まだまだ元気なミュシカは小走りになった。こら、とマルーシャが呼ぶのが楽しくなってしまい、言うことを聞かなかった。そして食堂へと駆け込んだところに、給仕中の女がいてぶつかったのだった。

「割れたお皿と料理の代金はお支払いします」
「はあ、それでけっこうですよ。元気なお嬢さんも、もう気をつけるでしょう」

 主人は苦笑いだ。数日滞在するといって前払いしてくれた客だし、丁寧に謝罪してくれたうえに弁償するというのなら文句はない。叱られた娘も泣きながら謝ってきた。
 子どものしつけが行き届いていないと思ったが母親の方はずいぶん若い。これは後妻で、新しい母親に娘が反抗しているのでは、などと勝手な想像をした。ありえる。

「なんだか、ニヤニヤ見られてるわ……」

 席について、マルーシャは落ち着かなげだ。

「ごめんなさいお母さま……」
「あのねミュシカ、いけないと注意されることには理由があるの。次からは考えられる?」
「うん」

 次の時にはまた気持ちのままに走りかねないのだが、返事はおりこうさん。そんなものよね、とマルーシャは微笑むしかない。

< 115 / 144 >

この作品をシェア

pagetop