かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
メレルスが遠ざかるのを確認し、リージヤがふう、と詰めていた呼吸を楽にする。あんな風に感情を表に出されたのは初めてだった。
「何もされなくて良かったよ……」
最悪を想像していたルスランの背すじがふるえた。
これまでリージヤの安全は心配せずにいたのだが、間違っていたかもしれない。メレルスは冬告げ姫などどうでもいいのか。どうりで放置されるわけだ。
誘拐の目的がはっきりしないと思っていたが、腑に落ちた。
メレルスの中に合理的な結末などなく、ダニールへの感情に駆られて思いついたことをしているだけなのだ。
ダニールが来たというのなら、犯人の目星をつけての行動だろう。クレヴァ夫妻といえば騎士団員で兄の数少ない友人。ファロニアがやっと動いたのか。
ならばメレルスがすべきは、逃走だ。捕縛の危機にあるのに次の標的を奪う計画を立てている時点でもう、正気ではないのかもしれない。
「お兄さんの妻って、誰? 娘って?」
リージヤが困惑してつぶやいた。
「さあ――」
ルスランだって何も心あたりはない。彼らが誘拐された時点でダニールに結婚話など欠片もなかった。だからそれは、妻でも娘でもない他人。
「だけど、その人たちが危ない」
ダニールの妻子というのがメレルスの誤解なのはこの際どうでもよかった。メレルスはそう信じ、何かをしようとしている。
「どうすれば……」
二人は青ざめた顔を見合わせた。