かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

初めまして、お祖父さま

  ✻ ✻ ✻


 マルーシャは黄金色の陽光が降る庭園の小径をたどっていた。そこかしこが紅葉し、木の実を小鳥がついばみに来ている。

「素敵な庭――」
「ここでミュシカもよく遊んでる」

 隣で言ったのはダニールだ。二人そろって身なりをととのえ、やや緊張した表情。今日はファロン侯爵に会いに来たのだった。
 やっとたどり着いた旅の目的地、ファロニアで侯爵邸を訪ねると、二人は庭園へと通された。執務室などではなく家族と過ごすくつろぎの場所でマルーシャを迎えたい。侯爵はそう言ってくれたそうだ。

「お祖父さんに会えるのね……」
「やっと任務が果たせるよ」

 ダニールがここを発った時にはその旅がこうなるとは思いもしなかった。マルーシャとともに事件を解決し、そのうえ交際することになるだなんて。
 マルーシャだって最初はただ、母アレーシャが生まれた国を見てみたいと思っただけだった。ダニールのことは素敵な人だと感じていたけど、恋し恋されるとは思わない。その後の冒険も何もかも、嘘のような出来事だった。
 二人そっと、視線を合わせる。微笑み合う。

「――私たち、へんてこね」
「ああ。でも間違ったとは思わない」

 だって、並んでいて幸せだから。

「僕らは妖精だ。心が感じたことを信じるのがいいと思う」
「うちのお父さんは人なのに、妖精族より直感的に生きてるわ」
「……否定はできないね」

 一緒に吹き出してしまった。
 直感でアレーシャと恋をして、そのまま妻にしたクリフト。
 そこから産まれた娘マルーシャが、めぐる季節の末こうして祖父に会いに来るなんて。当時の誰も思わない。

 紡がれる時間は、別れの悲しみや誕生の喜びや行き違う心の切なさを織り上げながら果てしなく続いていく。
 春、夏、秋、冬。
 四季をこうあれかし、と繰り返しながら。
 ずっと、ずっと。
 
「あ――」

 ひらけた先のこじんまりしたテラスに、お茶の用意されたテーブルがあった。
 そこに上品で貫禄のある男性が立っている。六十過ぎと聞いていたが、まだまだ老いた感じはなかった。
 前まで進み出て、ダニールが黙礼した。振り向いてマルーシャをうながす。

「――お祖父さん? 初めまして、マルーシャ・アヴェリンです」

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