かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

囚われの夫婦

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 ザラエの商人ロジオン・メレルスは郊外の地主でもあった。そこで荘園を経営するために、農地の中に田舎風の館をかまえている。元はこちらが本拠地だった。
 低い石塀に囲まれた頑丈な石造りの建物。先祖は地道な農業で財を成し、それを元手に商売を始めたらしい。
 それを可能にしたのはメレルス一族が妖精の力を持っていたからだった。土地の恵みを引き出し、他が不作の年も食糧を生産してきたのが富の元。

「――そうして、ただ生きていけばよいものを。季節をあやつろうなど大それたこと」

 館の二階に広い部屋を与えられているリージヤ・ファローナ・ジートキフは冷ややかにつぶやいた。
 彼女がここに強制的に招かれて、もう一ヶ月ほどになる。窓の外の田園は滞在中に晩夏から秋へと表情を変えてきていた。

「僕しかいないのに、その〈冬告げ姫ごっこ〉はやめようよ」

 ほがらかに笑いながら、夫のルスランがリージヤに寄りそった。ポスンとその肩に頭を預け、リージヤはいたずらな瞳になる。

「だって、お稽古は欠かしちゃいけないでしょう」
「熱心だねえ」
「――ミュシカは、元気かしらね」

 娘を守るためならば、演技だってする。
 
『ご同行願おう、冬告げの姫』

 拉致された時に犯人のその言葉を聞いて以来、二人はそれっぽく振る舞ってきたのだった。
 リージヤは薄氷のように冴えざえとした笑みを浮かべ。
 ルスランはその妻にかしずくようにし。
 本来のリージヤはふうわりしたお茶目な女性なのだが、そこは押し隠してなるべく突き放した物言いで通している。

「僕らを害することも解放することもないんだから、ミュシカのことはバレてないよなあ。でもあの子の面倒は誰がみてくれてるんだろう」
「侯爵家で保護してるでしょうけど。甘えんぼちゃん(ミュシカ)は我がまま言ってそうね」

 覚悟の上で囚われたのだが、さすがにこんなに長期に渡るとは予想していなかった。兄のダニールがすぐに追跡し居場所を突きとめるはず。そうすれば異国のこととはいえファロン侯爵が対応するだろうと思ったのに、なかなか助けは来ない。
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