かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
何世代も前にファロニアから出た妖精族は、人前でおまじないを使うことが禁忌だとわかっていない。普通でない力は迫害のきっかけにもなり得るのに。
人族とまじわり薄まった血にも先祖がえりする者が現れることがあり、それがロジオン・メレルスなのだろう。
彼は代々口伝えされたおまじないを唱えてみて、その力に気がついた。ならば利用したくもなる。禁じられているなどと考えもせずに。妖精の世界から切り離されていたせいで、危険だと思わないのだ。
「それにしても、おまえの追跡術をはね返したってのはすごくないか? そんなにおまじないに詳しいなんて」
「昔、僕にやられたことだからかな……僕の研究を調べて勉強したんだろうか」
「うわー努力家」
ファロニアにおいてダニールは学者だが、他国では不思議な言い伝えを集め歩く物好きとしか思われていないはず。記した書物も各地の寓話集の体裁だ。ファロニアの図書館にならばひっそりと収蔵されているが、それを見つけたのか。
「そのメレルスって本気で暗い性格だな!」
「……さすがに僕も引く」
憎まれた側もあきれる執念の持ち主ロジオン・メレルス。だがどんな男が相手でもルスランとリージヤを救出しなくてはならない。ダニールはこぶしを握った。
「ザラエに行くしかないな」
「あ、いちおうファロニアからの指示待ちだ」
「連絡したのか?」
「ここはバルテリスでの窓口の街だし。報告は上げなきゃ駄目だろ」
ファロニアに近い大きめの街といえばこのヴェデレだ。ここに拠点をかまえるファロニア商人が本国との連絡を請け負ってくれている。鳩を飛ばしたので人が行くより早く伝わるはずだった。
それでもダニールはジリジリした焦りを感じた。弟夫婦を取り戻さなくては。そして本当の両親にミュシカを返してやるのだ。
だがそれにはダニール独りで行くことになるだろう。マルーシャを巻き込むわけにはいかない。
ここで、お別れなのか。そう思うとダニールの胸はざわざわと波立った。