没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています

4章 偵察の一夜

隣国の街は、想像していたよりも賑わっていた。

行き交う人々の声、露店の呼び込み、酒の匂い。

どこにでもあるような光景のはずなのに――

「気を抜くな」

隣を歩く殿下の声が、現実に引き戻す。

「はい」

頷きながら、周囲に目を配る。

ここは敵地だ。少しでも怪しまれれば、何が起こるか分からない。

「馬を降りて、街を見て回る」

「はい」

二人で馬を預け、人混みの中へと紛れ込む。

自然に、距離が近くなる。

(近い……)

肩が触れそうな距離。

それだけで、妙に意識してしまう。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

「酒屋はあちらだ」

殿下が顎で示す。

さりげない仕草なのに、どこか慣れている。
< 31 / 100 >

この作品をシェア

pagetop