没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
手綱を操りながら、殿下が淡々と言う。

「はい」

短く答える。

もう私は、ただ命じられたことをこなすだけの侍女ではない。

殿下の隣で動き、支える存在――侍従のような立場になっていた。

風を切りながら、自然と距離も近い。

「目立たないように動く必要があるな」

「はい。人目を避けて――」

言いかけたところで、殿下がふっと笑った。

「恋人を装った方が、怪しまれないかもしれないな」

「恋人!?」

思わず声が裏返る。

顔が一気に熱くなるのが分かった。

(こ、恋人って……!)

そんな関係ではないはずなのに。

そう言われただけで、心臓が跳ねる。

ちらりと横を見る。

殿下は、どこか楽しそうに笑っていた。

その笑顔が、やけに眩しくて――私は何も言えなくなってしまった。
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