没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
まるで本当に、この街に馴染んでいるかのように。

(さすが……)

感心していると、その時だった。

人の流れが一瞬乱れる。

ぶつかる――そう思った瞬間、腕を引かれた。

「っ……!」

気づけば、殿下の腕の中に引き寄せられている。

「前を見ろ」

低い声が、すぐ近くで響く。

(危なかった……)

一歩間違えれば、不自然な動きで目立っていたかもしれない。

「す、すみません……」

「謝るな。ここでは一瞬の油断が命取りだ」

そう言いながらも、手はすぐには離されなかった。

そのまま、人の流れに合わせて歩き出す。

(……守られてる)

そう実感した瞬間、胸がじんわりと熱くなる。

「怖いか」

不意に問われる。

「……少しだけ」

正直に答える。
< 32 / 100 >

この作品をシェア

pagetop