アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
chapter,8
九月になっても、屋敷の空気はどこかぎこちなかった。
二人分の朝食が並んでいる食卓で、奏はコーヒーを飲みながら新聞に目を通していた。
紬希はトーストを食べながら、窓の外を見ている。
ふたりの間に会話はない。
以前はこんなに静かでも不思議と心地よかった沈黙が、今はどこかよそよそしいし、重たく感じられる。
――奏さんになんて言えばいいんだろう。
気まずくなった夜から、紬希はずっとそれを考えていた。
謝りたい。でも、何を謝ればいいのか分からない。
勝手に動いたことか。迷惑をかけたことか。それとも……軽井沢で、契約の外に踏み出してしまったことか。あのときは確かに通じ合えたと思ったのに……。
奏が新聞をとじ、ぽつりと問いかける。
「今日の予定は」
「……午前中に弟の病院へ。午後は特にないです」