アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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翌朝、ミュージックビデオの打ち合わせがあるからと奏は早くに屋敷を出ていった。奏単独ではなく、国内外で活躍している男性ピアニストが複数人集まって連弾を行うのだという。撮影自体は来年の春だというがスケジュールの関係もあるため、ここ数日の奏は遠方まで日帰りで通っている。
前日まで食べて行くつもりだったらしいが、時間がなくなってしまったのだろう、食卓には二人分の朝食が残されていた。
紬希は一人、冷めていくコーヒーを見つめる。
――どうせ契約が短くなるだけ。ここで身を引くべきなのかもしれない。
伊織の言葉が蘇る。
奏の冷たい声も耳に響く。
契約はまだ終わっていないから、彼は紬希をここに置いておいてくれるのかもしれない。
――だけど。
窓の外はすっかり秋の気配が漂い始めている。空高くから、黄色く染まった銀杏の葉がはらはらと舞い降りてきた。
いつの間にか、一年間の契約の三分の二が終わっていることに紬希は愕然とする。
――このままここにいたところで、奏さんを傷つけるだけなんじゃないかな。でも、離れたくないよ……。
冷めたコーヒーを啜りながら、紬希はひとり、今後に思いを馳せていた。