アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「そうか」

 奏が席を立つ。紬希も立って、食器を片付けようとする。

「紬希」

 不意に、名前を呼ばれる。期待してはいけないと思いながらもドキドキする気持ちは止まらない。

「……はい」
「スポンサーの件は、落ち着いた。気にするな」

 それだけ言って、奏は書斎へ向かった。
 紬希は首を傾げながらその背中を見つめる。

 ――落ち着いたって何? 気にするな、って……。

 契約結婚をして八か月。ぶっきらぼうなところはあるけれど、彼の放つ言葉は優しい。
 言葉ではわかっているのに、紬希の胸にはチクリと痛みが走る。
 だって、自分がいるせいで問題が起きて、自分がいるせいで奏が気を遣っているのだ。

 ――わたしは、ここにいていいの?
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