アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
chapter,5
ヨーロッパから帰ってきて、最初に気づいたのはささやかなことだった。
奏が、夕食の時間に間に合うように帰ってくるようになったのだ。
以前は深夜に戻ることも珍しくなかった。それなのに帰国してから、奏は夕方には屋敷に戻っている。スケジュールが変わったのか、それとも……。
紬希は夕食の準備を手伝いながら、そんなことを考えていた。
佐伯が「奥様がいらっしゃるから奏さんの分も」などと言って料理人に早めの支度を頼んでいたのを聞いてしまったから余計に意識してしまう。
――気のせい、よ。気のせい。
などと心のなかでぶつぶつ呟いていた紬希を笑うように、遠くで玄関の扉が開く音がした。
「ただいま」
奏の声だ。
紬希はダイニングから廊下に顔を出す。