あと30日で、他人に戻るふたり

15日目 いないだけなのに

昨日あれだけバタバタした一日だったから、せめて朝くらいはちゃんとしていようと決めて寝室のドアを開けた。


……まだ、ソファで寝てる。

ふぅ、と息を整えてリビングは通過し、キッチンへ滑り込む。


薄暗い部屋にキッチンの明かりだけつけて、食パンをトースターに入れた。
コーヒーも今日は私が淹れてしまおう、と準備し始めていると。


「……おはよう」

背後から低い声が聞こえて、思わず肩が跳ねる。

「うわっ!…おはようございます」

持っていたコーヒーの粉をこぼしてしまった。


「あーあー。朝から何やってんの」

世話が焼けるな、とばかりに笑う大地さんはいつもと変わらない。

昨日のしょうもない出来事はなかったみたいに接してくるので、私ももう、“あれ”はなかったことにする。

その方が、きっと楽だから。


「明日はサンドイッチがいいなー」

「じゃあハム買っておきます」

「うん」

明日のことを普通に話せているというだけで、なんだか少し心が和む。


「美月と暮らしてから、朝が楽しみになった」

不意に、そんな言葉が降ってきて驚いて見上げる。

たぶん彼からすれば本当にただ感想を言っているだけに過ぎない言葉。
それがどれほどの威力を持っているかなんて、本人は気づいていないような顔をしていた。


「あんまり食にこだわってこなかったからかな」

そう言いながら、焼き上がったパンを淹れたてのコーヒーを持って彼はキッチンを出ていくのだった。

その背中を、なんとなく見送ってしまう。


────私は朝から動揺しっぱなしだ。




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