あと30日で、他人に戻るふたり
「美月ー」

「……はい?」

呼び方が普通すぎて怖い。
怖いけど、呼ばれたからには行くしかない。

おそるおそる廊下へ出ると、洗面所から彼が半分顔を出していた。

「ブラってこれ?洗濯機の横に落ちてたけど」


彼の手に、ベージュの私のブラ。

────人生、終わった。

「……あーーーーーーー!!!!!」

「なんっでそんな大声出すの?ビビる」

「見ないで!!触っちゃだめ!」

「いやだって不可抗力…」

「だめだってば!」


遮るように言い切って、彼に手からブラを奪い取る。

最悪。最悪すぎて泣きそう。
なにが悲しいって、私と彼の温度差がひどい。


「仕方ないよ。こういうこともあるって」


……なんでこの人に励まされてるんだろう。

半分虚しくなりながら、使い古したブラを服で隠した。

「大丈夫?」

彼がまだ洗面所から、私の様子を伺っている。
どこか笑いをこらえているようにも見えて、それがまた腹立たしい。

とにもかくにも、彼の目はもう見れない。
穴があったら入りたい。


「……もういいです。おやすみなさい」

「うん。おやすみー」


私はすべてを諦めて、そのまま寝室へ逃げ込んだ。


ドアを閉めて、ベッドに倒れ込む。
枕に顔を埋めて、過去一の盛大なため息をついた。


……今日は、いろいろありすぎた。


仕事で少し前進できたって思ったのに。
プライベートが前途多難すぎる。


タオルケットをかぶると、ぎゅっと目を瞑った。


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