あと30日で、他人に戻るふたり

28日目 リベンジさせてくれない?

今日の「おはよう」は私の寝室で交わした。


先に起きたのは私で、ベッドから這い出るみたいに降りると、振動であとから大地さんが目を覚ました。

「おはよう」

「……おはようございます」


────気まずい。
と、いうより。

死ぬほど恥ずかしい。


「……眠い。仕事休みたい」

後ろでなんか言ってるけど、私はそそくさと寝室からリビングへ出た。


エアコンをつけっぱなしで寝てしまっていたらしい。
リビングはしっかり冷えていて、気持ちいいような、寒いような。


「今日はアイスコーヒー飲もうかなぁ」

こっちはまだ心臓が落ち着かないっていうのに、大地さんは大きなあくびをしながら私の横を通り過ぎていく。

普通すぎて、逆に不安になる。


「美月は?ホット?アイス?」

キッチンから尋ねられて、カラカラの喉で

「アイスコーヒーがいいです」

と答えておいた。


カーテンを開けると、強い日差しが容赦なくリビングを照らす。

「いよいよ梅雨明けかな…」

ぽつりとつぶやいた自分の声は、思ったよりも明るかった。


私がキッチンへ行くと、大地さんが冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出しながらこちらを向く。

「今日、帰りちょっと遅くなると思う」

取り出しやすくなったコップを下ろして、「残業ですか?」と聞いてみたら、すぐに首を振った。

「不動産屋に寄ってくる」


はっとして息を飲んで思わず彼を見つめると、なんでもないように静かに笑う。

「契約、破棄してくるから」

「あ……、あの…やっぱり契約しちゃってたんですよね」

どこからともなくやってくる罪悪感を、完全に私の顔から察したらしい。

ふっと大地さんはコップにコーヒーを注いでキャップを締めた。

「気にしないで。敷金礼金は、勉強代みたいなもん」

“勉強代”という表現に、笑いが込み上げてしまう。


「……はい」


関係が変わるというのは、勇気もいるし疲れるけれど。必ずしも報われるとも限らないけれど。

もういなくならない。

それだけの事実はしっかりとここにあるから、むしろ安心した。



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