あと30日で、他人に戻るふたり
この人は、必要以上のことは言わない。
それはこれまでも、これからもそうなんだと思う。

でも、どうでもいい話はする。

その“どうでもいい”の中に散りばめられた、ひと握りの愛情を見逃さないようにすれば、きっと私たちはうまくいく。


初めてのキスなのに、一向に終わらなくて。

いつ終わるんだろう、とぼんやり考える。
リビングで下げられたエアコンの冷気が、寝室までゆっくり入り込んでくる。

甘くて長いキスは、これまでの色んなことを忘れさせるみたいなものだった。


「…どこまでするの?」

一瞬だけ唇が離れた隙に尋ねると、彼は額をほとんどくっつけたまま悩ましそうな目をした。

「まあ、俺出ていく気ないし」

「すごい自信じゃないですか」

「だって美月、離れる気ないよね?」

「大地さんが離す気ないんでしょ?」


お互いの手が、背中に回ってつかんで離れない。
こんな時にまで言い合うのもどうかと思う。


「せっかくの侵入記念だからね」


言葉はものすごく軽いのに、なぜか重く聞こえた。

「────うん」

静かにうなずいたら、またキスされる。

こういう時は、ちゃんと熱を伝えてくる人なんだと安心した。


「……よかった」

彼の腕の中でつぶやくと、「なにが?」と聞き返される。

「ここに…、残ってくれることを決めてくれたから」

素直に言葉にすることで、ここ数日の不安がなかったことみたいに頭のどこかから抜け落ちていった。

「私、どうしようってずっと思ってて」


しっかりと、ぎゅうっと抱きしめられて、もう大丈夫だと確信する。


「……商店街のでかいせんべい、食べに行かないと」

「──ふふっ」


これが優奈の言ってた、“どうでもいいことの積み重ね”だ。

大地さんの今のそれで、はっきりと感じた。


返事の代わりに、今度は私からキスをした。



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