彼と彼女の、最大の不具合
右京天音の場合
「いや~、試作品間に合ってよかったわ~!」
やけに能天気な声で笑う目の前の男に、思わずため息が漏れそうになるのをなんとか飲み込んだ。
QAから評価結果の承認通知が送られてきた日の退勤後、駅前の居酒屋の個室で向かい合って座っているのは品質保証部、いわゆるQAに所属している霧島恒一。
大学時代からの付き合いで、「まあ、最悪なんとかなるっしょ」が口癖のこいつには仕事でもプライベートでも散々振り回されてきたが、こうして何事もなかったかのように笑っていられるのは結果的に全部なんとかなってきたからで、今回もその例に漏れずギリギリの綱渡りをどうにか渡りきった直後だからこそ、この軽口も許せるのかもしれない。
「これ以上延びると、天音のとこ殴り込みに行くとこだった」
「勘弁してくれ」
グラスのビールをぐいっとあおりながら返せば霧島は腹を抱えてケラケラ笑うけれど、こっちは正直笑い事じゃない。
あのグローバル案件は本当に紙一重で、ほんの少しでも歯車が狂っていたら今頃こんなふうに酒を飲んでいる余裕なんてなかったはずで、それでも終わった。終わってしまえば全部が少しだけ遠くに感じるくらいには気が緩んでいる自分がいるのも確か。
「てか、今日香坂さんと飲みに来なくてよかったの?」
「断った」
「へ~、ことわ……って、え!?」
霧島が大げさなくらい目を見開いて身を乗り出してくるから無意識に少しだけ距離を取る。
「天音が香坂さんの誘いを断るなんて、明日雪でも降るのか?」
半ば冗談めかして言われて、わかってるくせにと思いながらも否定する気にもなれず、背もたれに体を預けてゆっくりと息を吐き出す。