クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

十話 同居

 品川の隼人さんのマンションに来たのは二度目だった。
 私のアパートから隼人さんの車で移動し、隼人さんの部屋に入るなり「とりあえず風呂入ってろ」と言われて、私はバスルームに連れて行かれた。

 そこはまるでラグジュアリーなホテルのようで、広い洗面スペースにはスクウェア型のベッセル式ボウルが二つ並んでいる。その隣には最新のドラム式洗濯乾燥機があった。

 ガラス戸で区切られたお風呂は明るいグレーの大理石の壁で囲われ、白い浴槽は高身長の隼人さんが足を伸ばせる広さで、あまりにも場違いな空間に戸惑ってしまう。

「あの、隼人さん。お借りしてもいいんですか?」
「当たり前だ。タオルはここに置いておく。空き巣の現場を見て疲れただろう。ゆっくり温まって来い」
 そう言って隼人さんは、ふかふかの白いバスタオルを棚に置いた。
「ありがとうございます」
 隼人さんが洗面所を出て行くと、持参した着替えを棚に置き、服を脱いだ。
 大理石のバスルームに入り、熱いシャワーを浴びていると、嵐のようだったこの数日の出来事が湯気と一緒に少しずつ溶け出していくようだった。
 父との再会、パリでの楽しかった思い出。そして、ぐちゃぐちゃになった私の部屋……。
 就職して初めて自分で借りた部屋だった。狭いけど我が家に帰って来た時は、全身の力が抜けて安らげた。あの場所に知らない第三者が入ったと思うと、怖くて堪らない。急に膝が震え、床にしゃがみこんだ。
 溢れ出した涙がシャワーの熱いお湯と混ざり、床へと流れていく。

「……うっ、うっ……」
 一度声を漏らしてしまえば、もう止められなかった。
 隼人さんと一緒に被害を確認した時は、彼の前で弱音を吐くまいと必死だったけど、ぐちゃぐちゃに荒らされたクローゼットや、床に散乱した衣服を思い出すと、背筋に冷たいものが走る。あんなに安らげた場所が今はもう恐ろしい場所に変わってしまった。

「……酷いよ。……うっ、うっ……」
 私の生活の場を壊した犯人に悔しさと怒りが込み上げてくる。
 行き場のない感情を吐き出すように私は泣き続けた。
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