クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

十二話 約束

 隼人さんの部屋を出てから一ヶ月が経ち七月になった。
 来週には50周年記念のパーティーも控えていて、私も出席を命じられていたが、気が重たかった。

「はあ」
 思わず盛大なため息をつくと、キッチンに立っていたなぎさが、こっちを向く。
「ため息つくと、幸せが逃げるよ」
 そう言ってなぎさが出来上がったばかりの料理を持って来る。
 リビングのローテーブルの上におかれた二つの皿には、卵で包まれた綺麗な楕円形のオムライスが乗っていた。ケチャップで【みずき】【なぎさ】と書いてあるのを見て、笑みが零れた。

「名前書いてくれたんだ」
「いいでしょう! 歴代の彼氏には好評だったんだから。はい、それじゃあ、いただきます」
 私もなぎさに続き「いただきます」と手を合わせてからスプーンを持った。
 隼人さんの部屋を出てから、行く当てがなかった私は川崎のなぎさのマンションに転がりこんでいた。
 なぎさにずっと甘えていたが、そろそろ六郷土手のアパートを解約して、新しい部屋を探そうと思っていた。
「なぎさの料理って、なんかほっとするね。ありがとう」
 やや薄味のケチャップライスを口にして、しみじみと思う。
 隼人さんに契約恋人をやめたいと言った日、私の心は深く傷つき、この一ヶ月は何とか生きている感じだったけど、なぎさのおかげで気力を取り戻しつつあった。
「料理上手の高月キャプテンには及ばないけどね」
 隼人さんの名前が出て、ズキッと胸が痛む。
「あ、ごめん。高月キャプテンと別れたばかりなのに、余計なことを言って」
「いいの、いいの。もう平気だから」
 契約恋人のことは話さず、隼人さんと別れたとだけなぎさには伝えていた。
「でもさ、本当にいいの?」
 スプーンを動かす手を止めたなぎさが、真剣な目で見つめてくる。
「瑞希、まだ高月キャプテンのことが好きなんでしょ? 好きな人がいるって嘘までついて別れることなかったんじゃないの? 何があったか知らないけど、高月キャプテンは瑞希と話し合いたいって言っていたよ」

 数日前、空港の廊下ですれ違った時、私も隼人さんに「話がしたい」と腕を掴まれたが、その手を振り払って逃げた。隼人さんと二人きりになれば、白鳥綾音に脅迫されたことを言ってしまいそうで怖かった。

「私は話す気は全くないから」
「浮気でもされたの?」
「違うよ。そんなんじゃないよ」
 隼人さんの名誉のためにも慌てて否定した。
「じゃあ何?」
「何だっていいでしょう。この話はもう終わり」
 私はオムライスを勢いよく口に放り込んだ。
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