クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「瑞希か! どこにいるんだ?」
『隼人さん、どうしたんですか? そんな焦った声で』
 クスクスという瑞希の笑い声が響いた。
 人がどれだけ心配しているか全くわかっていない様子に腹が立つ。
「いきなりいなくなれば心配するだろう。空き巣に入られたばかりなんだぞ」
『あはは、そうだ。隼人さんって、意外と心配症だったんだ。私は大丈夫ですよ。安全な場所にいますから。今、楽しくお酒飲んでいる所です。隼人さん、聞いて下さいよ。昨日のフライトシミュレーター、墜落しちゃったんですよ。もう、やけ酒ですよ』
 受話器の向こうの瑞希の声は、普段の彼女よりもワントーン高くて、どこか無理に明るく振る舞っているような違和感があった。
「酒飲んでいるのか?」
『明日はオフだからいいでしょう』
「迎えに行く。どこにいるんだ?」
『一人で大丈夫ですよ。大人なんですから。それから、隼人さんにお願いがあります』
 そう前置きをした後、沈黙が降りた。
「なんだ?」
『……契約恋人をやめたいです』
「どうして?」
『……好きな人がいるんです。だから、これ以上はもう無理です。お金は全額返金しますから』
 決定的な言葉が胸に突き刺さる。
 以前から瑞希に好きな奴がいるのは知っていたが、見て見ぬふりをしていた。
「もしかして、そいつと上手くいったのか?」
 俺を切るということは、それしか理由は考えられなかった。
『ええ、おかげさまで。実は今、彼の家にいるんです。だから、心配しないで下さい。これ以上話していると、彼が嫉妬するんで。じゃあ』

 電話は一方的に切れた。
 ツーツーツーという通話終了の音がむなしく流れる。
 フロントガラスの外に浮かぶ、痩せた月を見つめながら、マリー橋の下での瑞希とのキスを思い出し、願いは簡単には叶えられないのだと悟った。
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