クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

三話 秘密のアルバイト

 パイロットの仕事が休みの日。私は四月の陽気に包まれた川崎市内を自転車で駆け抜けていた。
 背中には【クイック・イーツ】のロゴ入りの巨大なデリバリーバッグを背負い、カーキ色のマウンテンパーカーに黒のレギンス、ヘルメットの下には深い色のサングラスをかけている。
 この格好なら女性だとは思われない。見た目は完全にクイック・イーツ配達員のお兄さんだ。

 B787への移行訓練中に始めたこの副業は大事な収入源となっているが、うちの会社はパイロットの副業は禁止で、もしバレれば地上職への配置転換、最悪の場合はライセンスの剥奪に近い厳しい処分が待っている。
 だから身元がわからないように、見た目だけではなく、配達も顔を合わせない置き配に限定をしている。

 目的のマンション前で自転車を停め、ヘルメット、サングラス姿のままで二階にあがり、指定された部屋番号前の宅配ボックスにご注文の品を置き、完了報告用の写真をスマホで撮る。最後にクイック・イーツのアプリを操作し、お客様にクエストが完了したことを伝え、その場を立ち去った。

 午後一時。まだランチタイムのピークが続き、次々と配達クエストが入ってくる。とにかく今月末に支払いがある菜々美の学費と母の医療費の為に、一件でも多く配達をしなければならない。
 川崎駅前のお弁当屋さんで次の商品をピックアップし自転車を走らせる。信号で停車する度にハンドルに固定したスマホのナビで目的地を確認しながら走行していると坂道に出た。
 上り坂は少々キツイが、坂の上には小学校があり、満開の桜が風に舞っていた。その淡いピンク色の景色に、自然と頬が緩む。なんだかいいことがありそうな予感がする。
 春のわくわくとするような気持ちを抱えたまま配達先のマンションに到着する。そしてエレベーターで七階まで上り、お客様の部屋前の宅配ボックスに商品を入れる。その時、ガチャリと背後でドアが開く音がした。
 何気なく後ろを向くと、長身の男性とサングラス越しに目が合う。
 整った顔立ちを見た瞬間、心臓が凍りついた。

「……クイック・イーツ?」

 私を見て、不思議そうに告げたのは、先週、コックピットで一緒だった高月キャプテン。
 黒パーカーにジーンズというカジュアルな服装で、射抜くような視線で私の顔を凝視していた。
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