クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
羽田のオフィスで彼女を見かけるようになったのは、フロリダで会ってから約二年後だった。袖口に三本ラインが入る副操縦士の制服姿を見た時は、胸が熱くなった。思わず声をかけそうになったが、彼女が俺の顔を知るはずもないと思い直し、踏み止まった。
空港ですれ違うたび、パイロットの制服が板についていく彼女をどこか誇らしく感じ、ペアを組める日を密かに心待ちにしていた。そして、その機会は訪れたが、ブリーフィングで対面した彼女は期待外れだった。彼女は俺と目が合うなり落ち着きをなくし、話も上の空で、俺に色目を使う他の女たちと同じに思え、彼女に対する感心は一気に薄まった。
しかし、コックピットで南雲の印象は大きく変わった。PF(操縦担当)を務める俺に対し、PM(監視担当)としての彼女の仕事は完璧だった。悪天候に見舞われた福岡空港へのアプローチは、彼女の的確なサポートのおかげで、俺は操縦に専念することが出来た。これなら、羽田への復路の操縦は彼女に任せて大丈夫だろうと思った。
「次の福岡から羽田への離着陸は南雲の操縦だ」
そう伝えると、輝くような笑顔を浮かべた南雲がとびきり可愛くて、頬が緩みそうになった。まさか彼女がそんなに嬉しそうな表情を浮かべるとは思わず、完全に不意打ちだった。俺は何とか揺れる心を抑え、冷静さを務めたが、さらに俺の心を揺さぶる出来事があった。
その夜は、札幌でステイとなり人と会う約束があった。南雲の悲鳴を聞いたのはその帰りだった。
「離して! やめて! 誰か助けて!」
まさかと思って駆けつければ、金髪男に南雲は捕まっていた。
俺は夢中で金髪男を背負い投げし、南雲の腕を取って、涼介さんのバーに駆け込んだ。そこで俺は南雲の父親が家出中だということを聞き、俺と兄を置いて若い愛人と駆け落ちした身勝手な母のことを思い出した。だから、つい南雲に酷いことを言った。
「家を出たということは、家族を捨てたんだろう。そんな人間にしがみつく価値はないと思うがな」
俺の言葉を聞いて、南雲は一瞬、泣きそうな顔をしたが、毅然と言い返した。
「父はそんな人ではありません!」
南雲の言葉からは父親が好きなことが伝わって来て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
このままでは明日のフライトに支障が出そうだったので、俺は少々強引に南雲と同じタクシーに乗り、謝罪した。その時の彼女の切り替えしは予想外のものだった。
「見くびらないで下さい。仕事に私情は挟みません。高月キャプテンが父の仇だったとしても、コックピットに入った瞬間は全て忘れます」
俺が謝罪した理由を見抜いたことも、コックピットに入った瞬間は全てを忘れると言ったことも感心した。
「それは、それは、立派なプロ根性だな」
「当然です。多くのお客様の命を預かっているんですから」
五年前のフロリダで泣きそうな声で無線に応えていた南雲はどこにもいなかった。凛とした彼女の鼻筋の通った横顔を見て、一人の男として、強烈に惹かれ始めていることに気づいた。
空港ですれ違うたび、パイロットの制服が板についていく彼女をどこか誇らしく感じ、ペアを組める日を密かに心待ちにしていた。そして、その機会は訪れたが、ブリーフィングで対面した彼女は期待外れだった。彼女は俺と目が合うなり落ち着きをなくし、話も上の空で、俺に色目を使う他の女たちと同じに思え、彼女に対する感心は一気に薄まった。
しかし、コックピットで南雲の印象は大きく変わった。PF(操縦担当)を務める俺に対し、PM(監視担当)としての彼女の仕事は完璧だった。悪天候に見舞われた福岡空港へのアプローチは、彼女の的確なサポートのおかげで、俺は操縦に専念することが出来た。これなら、羽田への復路の操縦は彼女に任せて大丈夫だろうと思った。
「次の福岡から羽田への離着陸は南雲の操縦だ」
そう伝えると、輝くような笑顔を浮かべた南雲がとびきり可愛くて、頬が緩みそうになった。まさか彼女がそんなに嬉しそうな表情を浮かべるとは思わず、完全に不意打ちだった。俺は何とか揺れる心を抑え、冷静さを務めたが、さらに俺の心を揺さぶる出来事があった。
その夜は、札幌でステイとなり人と会う約束があった。南雲の悲鳴を聞いたのはその帰りだった。
「離して! やめて! 誰か助けて!」
まさかと思って駆けつければ、金髪男に南雲は捕まっていた。
俺は夢中で金髪男を背負い投げし、南雲の腕を取って、涼介さんのバーに駆け込んだ。そこで俺は南雲の父親が家出中だということを聞き、俺と兄を置いて若い愛人と駆け落ちした身勝手な母のことを思い出した。だから、つい南雲に酷いことを言った。
「家を出たということは、家族を捨てたんだろう。そんな人間にしがみつく価値はないと思うがな」
俺の言葉を聞いて、南雲は一瞬、泣きそうな顔をしたが、毅然と言い返した。
「父はそんな人ではありません!」
南雲の言葉からは父親が好きなことが伝わって来て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
このままでは明日のフライトに支障が出そうだったので、俺は少々強引に南雲と同じタクシーに乗り、謝罪した。その時の彼女の切り替えしは予想外のものだった。
「見くびらないで下さい。仕事に私情は挟みません。高月キャプテンが父の仇だったとしても、コックピットに入った瞬間は全て忘れます」
俺が謝罪した理由を見抜いたことも、コックピットに入った瞬間は全てを忘れると言ったことも感心した。
「それは、それは、立派なプロ根性だな」
「当然です。多くのお客様の命を預かっているんですから」
五年前のフロリダで泣きそうな声で無線に応えていた南雲はどこにもいなかった。凛とした彼女の鼻筋の通った横顔を見て、一人の男として、強烈に惹かれ始めていることに気づいた。