クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

九話 願いごと

 パリ二日目の朝、ホテル近くのカジュアルなカフェに入り、隼人さんの姿を見つけた瞬間、頬が緩んだ。
 隼人さんは私に向かって手を振っていた。その姿に胸が弾んで、駆け出したくなったけど、逸る気持ちを抑えて隼人さんが座るテーブル席まで歩いた。

「おはよう。昨夜はよく眠れたか?」
「おはようございます。おかげ様でよく眠れました」
 隼人さんの正面に腰を下ろし、メニューを見るふりをして、隼人さんに視線を向ける。今日はTシャツにネイビーのジャケットを合わせていて、その組み合わせが素敵。それにやっぱり夢じゃなかったという思いが込み上げてくる。
「……夢じゃなかった」
「何が?」
 しまった。心の声が漏れていた。
「あ、いや、その、本当に隼人さん、パリにいるんだなって。今朝起きた瞬間、夢だと思ったんです」
 頬杖をついて、こっちを見る隼人さんがクスッと笑う。
「お前、俺の存在を夢だと思いながら、カフェに来たのか?」
「……はい。もしかしたら隼人さん、いないかもと思っていたので、隼人さんの姿を見つけてほっとしました」
 大きな手が伸びて来て、テーブルの上の私の手をぎゅっと握った。私より体温の高い手に心拍数が上昇する。
「は、隼人さん……?」
「俺はちゃんとここいるよ。瑞希に会いたくてロンドンから飛んで来たんだ」
 まるで私のことが好きだと言われたようで、顔中が熱くなる。
「……えーと、あの、ありがとうございます」
 隼人さんの顔を直視できなくて、俯くと「そんなに照れるな。こっちまで恥ずかしくなる」という言葉が返って来た。
 隼人さんの顔を見ると、僅かに赤い気がする。隼人さんらしくない反応にまたドキリとして、動揺を誤魔化すようにメニューを見た。
「クロワッサンとカフェオレにしようっと!」
 必要以上の大きな声で口にすると、ぷっという笑い声が返って来る。
「なんだ。そのわざとらしい言い方は」
「そ、そうですか。普通ですよ」
 また動揺が大きな声となってしまい、隼人さんが大声で笑い出した。
「お前、笑わせようと思ってやっているだろう。相変わらず面白い奴だな」
「……私、面白いんですか?」
 学生の頃から真面目だと言われ続けていたので、意外だった。
「ああ。面白い。おかげで一緒にいて飽きないよ」
 クスクスと楽しげに笑う隼人さんを見て、私まで楽しくなってくる。
 今日は素敵な日になりそうだ。
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