クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 カフェで朝食を食べた後はセーヌ川から出ている観光遊覧船に乗った。
 仕事でパリには何度も来ていたけど、観光らしいことはしたことがなく、一度セーヌ川を船で走ってみたかった。

「船に乗るにはいい季節だな」
 チケットを買った隼人さんが微笑む。
「そうですね。五月下旬のパリは暑すぎず寒すぎずで、ちょうどいい季節ですね」
 今日はパリの街を包み込むように水色の空が広がっている。湿気のないカラッとした気候で頬に当たる柔らかな風も心地いい。
「行くか」
 隼人さんが私の手を握って、遊覧船乗り場へと歩き出す。
 遊覧船はパリで最も古い歴史を持つシテ島の先端にあるポン・ヌフ橋のたもとから出ていた。
 今回乗るのは、乗客50名の中規模な船だった。
 船がゆっくりと桟橋を離れると、街の喧騒が嘘のように遠くなる。セーヌ川の川面は宝石をちりばめたようにキラキラと輝いて美しかった。

 私たちは船の先端にあるデッキ席に腰を下ろしていた。右手にはルーブル美術館の壮大な石造りの壁が見え、左手にはオルセー美術館の巨大な時計台が見える。そして行く先にはパリの象徴であるエッフェル塔が優雅に佇んでいる。今、本当にパリにいるんだと実感し、胸が熱くなる。

「……綺麗ですね」
「ああ」
 隼人さんが同意するようにぎゅっと私の手を握る。
 大きくて温かい手に触れていると幸せな気持ちでいっぱいになる。私は今、恋人としての幸福を噛みしめているのかもしれない。この関係が七月までだとわかっているけど、今だけは私だけの隼人さんだと思いたい。そんなことを思っていたら、不意に隼人さんがこっちを向いたから、ドキッとした。

「そういえば、今岡キャプテンが、瑞希が泣きながら俺を探していたと言っていたが、何かあったのか?」
 隼人さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
 三日前の出来事が過り、束の間の幸せから、現実に引き戻される。
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