遅かれ、早かれ、恋になりまして。
14:00
”悪いことなんかじゃないです”
朝のホームは、いつもと同じように人の流れが絶え間なく続いているのに、昨日の体調不良がまるで嘘だったみたいに、今日は不思議なほど体が軽かった。
今日の空気は少しひんやりしていて、でもその冷たさすら心地よく感じられるくらいには回復している。
ただ、その分だけ昨日の出来事がやけに鮮明に思い出されてしまって、胸の奥が少しだけ重くなる。
いろんな人に迷惑をかけてしまったこと、気遣ってもらった言葉の一つひとつが、今になってじわじわと効いてくる。
会社に着いたら、真っ先に課長にお礼を言わないといけないし、ちゃんと謝るべきところは謝らないといけない。それに八木くんにも、改めてきちんとお礼を言わないとな……。
足元を見ると、昨日は痛くて仕方なかった靴擦れが、今日はもうほとんど気にならないくらいに慣れている。
「……。」
………靴擦れに気づいてくれたのも、体調の変化に最初に気づいてくれたのも、全部、真っ先に有馬さんだった。
あの時の声、少しだけ低くて落ち着いていて、それなのに不思議と優しさが滲んでいた顔が、ふとした瞬間に頭の中に浮かんでしまう。
あ……どうしよう。思い出しただけなのに、急に緊張してきた。
胸の奥がドッドッと大きく鳴り始めて、自分でも笑ってしまいそうなくらい分かりやすく動揺しているのが分かる。
息を整えようとしても、逆に意識すればするほど心臓の音が大きくなるばかりで、視線のやり場に困る。
そんなタイミングで、ちょうど電車がホームに滑り込んできて、扉が開く気配に合わせて人の流れが動き出すのを見ながら、緊張でどうにかなりそうな自分を必死に抑えた。